酒販店「IMADEYA」が自社で日本酒を長期低温熟成。酒屋が付加価値をつける「IMADEYA AGING」とは

2024.05

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酒販店「IMADEYA」が自社で日本酒を長期低温熟成。酒屋が付加価値をつける「IMADEYA AGING」とは

山本 浩司(空太郎)  |  SAKE業界の新潮流

酒販店の「IMADEYA」(本店・千葉県千葉市)が、仕入れた日本酒の中から厳選したものを一定期間、低温熟成することで、よりまろやかなお酒に仕上げて、付加価値をつけて販売するという新しい試みを始めました。

酒蔵自身が自社の日本酒を蔵の冷蔵庫に保管して低温熟成をかける動きは徐々に広がっていますが、酒販店が大型の冷蔵貯蔵庫を作って熟成に取り組むのは珍しい試みです。「日本酒もエイジング(熟成)によって、味がより深まり、付加価値を高めることができる」と確信して新しいサービス「IMADEYA AGING」を始めたIMADEYAの小倉秀一社長に話を聞きました。

千葉本店に収容能力2万本の低温貯蔵庫を建設

千葉市中央区のIMADEYA千葉-本店-。日本酒とワインの豊富な品揃えを誇る店舗の隣に、2023年6月ごろに完成した低温熟成庫「IMADEYA AGING LABORATORY(イマデヤ・エイジング・ラボラトリー)」があります。

2階には廊下に面して黒い扉のついた3つの貯蔵庫が並んでいます。中に入るとひんやりとした空気が漂う中、金属製のラックに段ボールがひしめくように積み上げられていました。段ボールには「黒龍」や「山形正宗」などの名前が見え隠れしています。

3つの低温熟成庫の収容能力は約2万本。日本酒を1万5000~6000本、日本ワイン4000本、本格焼酎など1000本を貯蔵する方針です。庫内は4~5℃に設定し、蔵元から仕入れて3年以上低温熟成させ、頃合いを見て、「IMADEYA AGING(イマデヤ エイジング)」とネーミングをつけて販売していく構えです(すでに一部販売が始まっています)。

4〜5℃の貯蔵で熟成を目指す

今回の試みについて、小倉秀一社長は次のように話しています。

「特定名称酒は健闘しているものの、日本酒全体の消費量は年々落ちています。高齢化の進行と人口減少が続き、消費量の減少に歯止めをかけるのは難しい状況です。地酒を造る蔵も、地酒を扱う我々のような酒販店も安穏としていれば、淘汰の波に押しつぶされてしまうリスクがあります。

そのような状況の中、酒販店ができることはないかと10年以上前から考えを巡らせてきて、行き着いたのが付加価値の創造でした。日本酒の価値を高め、それに見合った価格で販売する。弊社では日本酒だけでなくワインも幅広く扱っていますが、普段からワインに比べて日本酒は安価だと感じていました。そこで、日本酒も熟成を行うことで付加価値をつけて売ることができないかと、7年前に50平方メートルほどの小さな熟成庫を実験的に作ってみました。

ただし、常温熟成はすでにやっている酒蔵があります。氷温(零度以下)で貯蔵する蔵も多くありますが、これはお酒の品質が変わらないことを目指しており、熟成して付加価値を高める方向性とは異なります。結論として、4~5℃のゾーンで貯蔵熟成することが新しい日本酒の未来を切り開くと考えました」

熟成向きなのは山田錦などの晩生品種

IMADEYAでは、まずは低温熟成によって、日本酒がどう変わるかの検証を始めたそうです。多くのソムリエなどのプロの意見を集めた結果、「寝かせることによって、味わいや香りよりも、お酒のテクスチャーが変わる。舌触り感がまろやかになり、より奥行きのある深い味わいのお酒へと間違いなく昇華するという結論に達しました」(小倉さん)。

そのうえで、さらに低温熟成による効果が明白に出てくる酒は何かを探って行きました。その結果、酒米としては早生(わせ※1)のお米よりも晩生(おくて※2)のお米の方が低温熟成でより複雑さが増し、しっかりとしたコシのある酒質になると感じたそうです。最も適しているのは山田錦のお酒です。

また、香りの強いフルーティーな酒よりも、米の旨味が前面に出ている酒の方が熟成向きだそう。そのほか、低温熟成の変化の目安としては3年前後の貯蔵が最もわかりやすいので、定期的にテイスティングしてタイミングを判断してから出荷することにしました。

(※1)早生:収穫時期の早いお米。寒冷地で育てられることが多い。五百万石、美山錦など。
(※2)晩生:収穫時期の遅いお米。温暖な地域で育てられることが多い。山田錦、雄町など。

こうして方向性が固まったことから、大型の低温貯蔵庫の建設を決め、2023年夏場から本格始動しています。銘柄選びは小倉社長とAGING担当のスタッフが議論を交わして決めています。

ポイントとなるのは販売価格の設定です。酒蔵から仕入れたお酒を貯蔵庫に収納した時点をスタートとし、熟成開始直前の価格に1年経過するごとに2割程度の価格を乗せることにしています。当面は3年熟成までとし、「それ以上熟成させた結果、さらに酒質が上がる酒が出来た場合には、価格の上乗せも考える」と小倉社長は話しています。熟成をかけたお酒は専用のパッケージに包み、「IMADEYA AGING(イマデヤ エイジング)」の札を首掛けして、店舗とオンラインで販売を始めています。

料飲店とも連携を深め、業界全体への広がりを願う

「まだ、日本酒の低温熟成に対する理解は深まっていない。啓蒙活動も不可欠。AGINGの文化を広げるには料飲店様の力を借りなければならない」と小倉社長は話します。そこで現在は、低温熟成の魅力を広めるアンバサダーになってくれる料飲店を募っています。アンバサダーになってくれた料飲店にはお酒をマーケットフィーとしてアンバサダー価格で提供するといいます。

「値引きではなく、IMADEYA自身による啓蒙活動にかかる費用を料飲店さんに肩代わりしてもらっているとの考えからです。うちのお取引先は6000軒あり、いま、営業担当者が一軒ずつ足を運んで、低温熟成の魅力を広める仲間を増やそうと頑張っている最中です」と小倉さんは話しています。

低温貯蔵庫のあるフロアの一角にはデラックスなテイスティングルームがあり、ここで頻繁に低温熟成酒の試飲会も開いていくそうです。この日は低温熟成をかけた「醸し人九平次」「七本鎗」「山形正宗」の3つを試飲させていただきましたが、いずれも、円やかで穏やかなテクスチャーのお酒になっていました。

「これは酒販店としての生き残り策でもありますが、低温熟成の魅力を広めるためにも、同様の試みを始める酒販店や酒蔵がどんどん増えて行ってほしい」と小倉さんは力強く話していました。

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