2024.12
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鶴、菊、竹、美人……日本酒の銘柄によく使われる言葉とその由来とは?
酒屋で商品を選んでいるときや、神社の本殿の近くにずらっと並んだ菰樽を見つけたとき。それらを眺めていると、多種多様な銘柄名の中に、よく使われている言葉があることに気づきます。
日本酒の名前には、どのような言葉が多く用いられるのでしょうか?この記事では、銘柄名に多く用いられる言葉を動物や花などの項目に分け、それぞれどのような背景があるのかをご紹介します。
動物に関する言葉
動物に関する言葉で銘柄名によく用いられるのは、「鶴」「亀」「龍」「鷹」「駒」などです。
「鶴は千年、亀は万年」という言葉があるように、生命力や長寿を意味する「鶴」 と「亀」 。水の神様として崇められ、天に昇っていくイメージから運気上昇 も司どる「龍」 。武家の鷹狩や騎馬など古来から日本人の暮らしと密接に関わり、成功や勝負を象徴する「鷹」 や「駒」 。 一般的に縁起が良いとされる動物の名前は、日本酒の銘柄名に使われることが多いです。
銘柄の例
- 鶴
- 「千歳鶴」日本清酒・北海道
- 「千代鶴」中村酒造・東京都
- 亀
- 「信州亀齢」岡崎酒造・長野県
- 「神亀」神亀酒造・埼玉県
- 龍
- 「昇龍蓬莱」大矢孝酒造・神奈川県
- 「白龍」𠮷田酒造・福井県
- 鷹
- 「鷹長」油長酒造・奈良県
- 「朝日鷹」高木酒造・山形県
- 駒
- 「勝駒」清都酒造場・富山県
- 「三春駒」佐藤酒造・福島県
花に関する言葉
花に関する言葉で銘柄名によく用いられるのは、「花」「牡丹」「菊」「桜(櫻)」「梅」などです。 百花の王といった雅やかな別名を持ち、豪華なイメージがある「牡丹」 や、品格があり高貴な花であり長寿 を象徴する「菊」 、寒さに強く春と幸福を呼ぶ とされる「梅」 、そして日本人の心の花 と言われる「桜」 など、それぞれに謂れがあります。
銘柄の例
- 花
- 「花春」花春酒造・福島県
- 「花の井」西岡本店・茨城県
- 牡丹
- 「司牡丹」司牡丹酒造・青森県
- 「白牡丹」白牡丹酒造・広島県
- 菊
- 「菊の司」菊の司酒造・岩手県
- 「美濃菊」玉泉堂酒造・岐阜県
- 梅
- 「宮寒梅」寒梅酒造・宮城県
- 「豊の梅」高木酒造・高知県
- 桜(櫻)
- 「出羽桜」出羽桜酒造・山形県
- 「御代櫻」御代桜醸造・岐阜県
草木に関する言葉
草木に関する言葉で銘柄名によく用いられるのは、「松」「竹」「稲」などです。 寒さに強く、緑の色が変わらないことから長寿や不老不死を思わせる「松」 や、広く根を張り、成長も早いため子孫繁栄 の意味を持つ「竹」 。古来から富、宝 として尊ばれてきた「稲」 は、お米が酒の原料であることからもよく用いられています。
銘柄の例
- 松
- 「愛宕の松」新澤醸造店・宮城県
- 「松若」白松酒造・静岡県
- 竹
- 「竹葉」数馬酒造・石川県
- 「竹泉」田治米合名会社・兵庫県
- 稲
- 「稲戸屋」芳村酒造・奈良県
- 「稲田姫」稲田本店・鳥取県
人に関する言葉
人に関する言葉で銘柄名によく用いられるのは、「娘」「美人」などです。 女性を表現するものを使うことが多く、「美人」に関しては、銘柄名に「美人」含む日本酒だけを集めた飲み比べコンテストが行われたこともあるそうです。 一方で、男性を表現する言葉は、人名などの固有名詞を除いて用いられることが少ないとわかりました。
銘柄の例
- 娘
- 「会津娘」髙橋庄作酒造店・福島県
- 「わかむすめ」新谷酒造・山口県
- 美人
- 「舞美人」美川酒造場・福井県
- 「福美人」福美人酒造・広島県
その他
上記に分類できないものごとでも、銘柄名に使われがちな単語が数多く存在します「金」 や「錦」 など豪華絢爛なものや、辛口の日本酒の代名詞「鬼ころし」 、長い歴史と共に全国に広まっている「男山」 や「正宗」 などがあります。 「男山」や「正宗」は、もともと特定のお酒を表す名前でしたが、江戸中後期にかけて偽ブランド品が大量に流通した結果、それぞれ「清酒」や「最上等の酒」を表す代名詞として定着したという説があります。 明治17(1884)年制定の明治商標条例における商標を専有する条件である「使用最も久しき」者の認定が困難になってしまったため、商標登録されることなく「慣用商標」 とされ、今日の多くの銘柄で目にする状態に至っているそうです。
銘柄の例
- 誉
- 「誉凱陣」丸尾本店・香川県
- 「隠岐誉」隠岐酒造・島根県
- 寿
- 「美寿々」美寿々酒造・長野県
- 「山の壽」山の壽酒造・福岡県
- 錦
- 「天下錦」福持酒造場・三重県
- 「秩父錦」矢尾本店・埼玉県
- 金
- 「金明」根上酒造店・静岡県
- 「金分銅」金分銅酒造・山口県
- 鬼ころし
- 「清洲城 信長 鬼ころし」清洲桜醸・愛知県
- 「酒伝 鬼ころし」大石酒造・京都府
- 男山
- 「男山」男山・北海道
- 「開当男山」開当男山酒造・福島県
- 正宗
- 「櫻正宗」櫻正宗・兵庫県
- 「山丹正宗」八木酒造部・愛媛県
まとめ
調べてみると、日本酒の銘柄名には、動物、植物、地理などの幅広いカテゴリから縁起の良い言葉が選ばれていることがわかりました。 日本酒自体も古くから「祝い酒」としておめでたいことがあった際に飲まれたり、「御神酒」として神様にお供えされたりと縁起物であったためでしょう。現在もその名残は強く、贈り物としても人気が高い商品です。 日本酒を選ぶ際には、そのお酒の銘柄に込められた思いを想像してみてはいかがでしょうか。
参考:
参考文献
- 『正宗』と『男山』はなぜ清酒の慣用商標となったか~近世・江戸市場における偽ブランド酒流通放置の帰結~上海博邦知識産権服務有限公司・顧問 伊藤 知生
- 世界初!? 「〇〇美人」日本酒コンテストに行ってみた!
- 蔵元・酒蔵見学検索
- 日本酒造組合中央会「日本酒FAQ」
- 『動物信仰事典』, 有限会社 花の企画者, 平成11年4月5日, 芦田正次郎著
- 『キモノ文様事典』, 株式会社 淡交社, 2001年5月1日, 藤原久勝著
- 『「きもの」と文様―日本の形と色』, 株式会社講談社, 1999年10月25日, 長崎巌著
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