日本酒輸出成功のカギ!信頼できるパートナーを見つける方法

2025.05

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日本酒輸出成功のカギ!信頼できるパートナーを見つける方法

宗田美咲  |  SAKE業界の新潮流

日本酒の輸出額は2010年以降、コロナ禍を除くと年率5~20%程度の成長を続けており、2021年からは400億円を超える規模になっています。実際に輸出をしている酒蔵の数も、国税庁の統計では令和6年度に回答者数の半数を超え、611軒に達しました。国内需要の低迷に直面している酒蔵は、海外市場で新たな機会を探っており、このトレンドは今後も続くと予想されます。

しかし、国内取引に比べて、輸出取引には多くの関係者や複雑な規制が絡み、自社だけで進めるのは難しいのが現実です。輸出取引で成功を収めている酒蔵は優れたパートナーと連携していることが多いように、パートナー選びが成功の鍵を握っているといえるでしょう。

本記事では新たに輸出を検討している酒蔵に向けて、輸出の基本知識や輸出計画の立て方に加え、具体的なパートナーの探し方を詳しく解説します。すでに輸出をおこなっているものの課題を抱えている酒蔵にとっても、現行の輸出戦略を見直す良い機会になるはずです。
後半では実務に役立つ契約書のサンプルと注意点も説明していますので、ぜひご活用ください。

輸出を始める前に知りたい基礎知識

輸出取引の流れと登場人物を知ろう

輸出パートナーの選び方を考えるにあたって、まずは国内取引とは異なる点の多い輸出取引の商流と、取引に関わる登場人物を知る必要があります。

輸出の商流は、酒蔵が海外顧客と直接契約を結び、自社製品を輸出する「直接貿易」と、貿易商社等代理店を通して販売する「間接貿易」との2パターンがあります。

直接貿易では、製品の価格設定、マーケティング戦略、顧客関係管理などを酒蔵が直接おこなえるため、柔軟な対応が可能です。レストランや小売店を通して消費者のフィードバックを得て、商品企画や販売戦略に生かすことができるので、自社のブランドを強く打ち出したい場合に有効です。

一方、間接貿易では、代理店が国ごとの規制対応を行い、現地言語での交渉も代行するので、酒蔵は人員体制の負担を軽減できます。また、販売先は代理店となるため、海外顧客からの代金回収のリスクを抑えることができます。

こうした商流を踏まえ、日本酒が輸出先国の消費者の手元に届くまでの取引に関わる、主な登場人物がそれぞれどのような役割を担っているのかを見ていきましょう。

登場人物

・エクスポーター(輸出者)

お酒を輸出する酒蔵。商品の製造と品質管理、輸出に必要な書類の準備、輸出規制や法律に関する準拠、販売先との契約交渉などをおこないます。

・インポーター(輸入者)

在庫リスクを負って商品を輸入します。輸入手続きや商品登録、倉庫保管、値決め、現地での流通、販売、マーケティングを担います。

・代理店

輸出者と輸入者の間で、規制対応などの輸出業務や海外バイヤーとの交渉、販売をおこないます。

・フォワーダー(物流業者)

エクスポーターとインポーターの間で、輸送の全プロセスを管理する専門企業です。最適な輸送ルートや手段の選定、通関手続きなどの業務を担います。

・現地ディストリビューター(卸)

現地のレストランや小売への販売網を持ち、日本酒を販売します。マーケティングやプロモーションの支援を行います。

・小売・レストラン

現地の日本食・アジア食レストラン、日系スーパー、リカーショップ、ECサイト(※)などが日本酒を最終消費者に提供します。
※近年では、日本酒専門のECサイトから直接、海外現地の消費者が購入することも増えています

このように、直接貿易は酒蔵が直接現地の輸入機能を確保する必要があり、ハードルの高い商流です。そのため、中小製造業者が多い酒蔵が輸出をする際には、ほとんどのケースで間接貿易が選択肢となります。

この記事では間接貿易において重要なパートナーとなる代理店の選び方に着目をして紹介をしていきます。

規制や手続きの基礎知識を押さえておこう

輸出には、ラベル表示、成分表示、アルコール度数、製造者情報、容量など、国ごとに異なる規制や手続きの複雑な知識が不可欠です。そのほか、各国の食品安全基準や輸入検疫制度にも従う必要があります。

例えば、米国のリカーライセンスは州ごとに異なります。また、3 Tier Systemという取り決めにより、製造・輸入、卸、小売が別法人でなければならず、さらに製造・輸入業者は卸業者にのみ、卸業者は小売業者にしか販売できないという制約があります。この規制により、中間コストの増大や、製造者が小売業者や消費者に情報を届けにくいという課題が生じています。

一方、中国では福島原発事故以降、福島県、群馬県、茨城県、栃木県、宮城県、新潟県、長野県、埼玉県、東京都及び千葉県の10都県で製造された食品の輸入が禁止されています。

これらの規制は変更される可能性があるため、JETROや農水省の公式サイト等で、最新の情報をチェックし続ける必要があります。

一般的に、輸出手続きでは輸出許可証やインボイス、パッキングリストなどの書類を準備します。間接貿易の場合は、パートナーが規制や手続きの対応に長けているため、相談をしながら指示されたものを準備することになるでしょう。

輸出計画を立てよう

パートナー選定に先立ち、まずは輸出の大まかな計画を立てましょう。どの国に輸出するのか、どんなお店で飲んでほしいのか、どんなストーリーを伝えたいのか。この計画を理解し、目標達成に向けて共に取り組めるパートナーを見つけることが理想的です。具体的には、以下のようなポイントを中心に計画を立てていきます。

・対象国

どの国に輸出するかを決める前に、候補国についての市場調査を簡単にでもおこなっておくのがよいでしょう。市場規模、競合製品の価格帯や特徴、現地の人々が日本酒についてどの程度知っているか、日本酒に対する消費者の好みなどは、国によって大きく異なります。

これから見るように、国ごとのパートナー選定や市場理解には労力がかかります。どの国も均等にやろう、と考えても、人手のない企業では成立しにくいですし、中途半端に展開をはじめてしまうと、代理店との関係や現地での評判の関係で、後々本格展開を進めることがかえって難しくなる場合もあります。結果的に複数国への輸出を同時に進める場合でも、主要ターゲット国を選ぶつもりで調査をしておくことは、決して無駄にはなりません。

調査を進めるうえで、市場調査のフレームワークについて書かれている書籍は役立ちます。また、JETROのホームページには、国・地域別でマーケットや規制に関する情報が掲載されているので目を通すと良いでしょう。また、実際に現地を訪問すると、リアルな市場状況を肌で感じることができます。

・目標とする数量や小売価格

数量はインポーターから指定されることが多いですが、事前に自社でも目標値を検討しておきます。国によって市場特性は異なっており、飲酒人口は多いが高い単価は実現しにくい国、人口は少ないが所得層が高く、高単価商品も販売できる国などさまざまです。したがって、どれぐらいの量を輸出したいのかイメージしておくことは、どの国への輸出に重点を置くか考えるうえで非常に重要です。

輸出初年度の目標数量や、何年間でどの程度成長したいかといった事業計画は、製造担当者と話し合っておきましょう。この時、需要が増えた際に対応できる製造体制があるかも把握しておくと良いでしょう。

小売価格については、輸出取引では輸送費や中間業者の介在によって最終小売価格が出荷額の3~5倍になることも考慮します。

・ターゲット層

ターゲット層は、ブランドコンセプトに応じて決まります。「商品を通して、消費者にどんな価値提供をしたいか」というブランドコンセプトを、事前に明確にしておきましょう。

商品購入時の価値観として、品質を重視する日本と異なり、「ブランドコンセプトやストーリーに共感できるか」を重視する消費者が多い国もあります。最終的には現地の消費者をよく理解しているパートナーと相談しながら詰めることになりますが、大まかにでも決めておくとよいでしょう。

・商標

特に本格的な進出を計画する場合、対象国での商標登録状況を調査し、必要に応じて現地での商標登録をおこなうことが推奨されます。

商標の重要性や手続きについては、過去の記事でまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。

輸出パートナーの探し方

輸出の商流知り、輸出計画を練り上げた後は、いよいよパートナーの選定に移ります。ここではよく活用される方法について紹介します。

・展示会・商談会

パートナーを探す際に最も効果的なのは展示会や商談会への参加です。業界組合や自治体、国やJETROが取りまとめる展示会では、短期間で多くの代理店と直接会って話すことができるだけでなく、輸出候補国の最新情報を集めることができます。日本で開催される「FOODEXJAPAN」や「“日本の食品”輸出EXPO」などは国内外からバイヤーが集まる大きなイベントです。

輸出候補先の国が決まっている場合は、日本産酒類輸出促進コンソーシアムなどに参加し、現地の展示会に参加するのも有効です。

・インターネット

国や地域によっては、主だったインポーターやディストリビューターが公式サイトで取扱銘柄や卸先を紹介している場合もあります。対象国にどのような企業が存在するか、どのような特徴をもっていそうかといったことを、あらかじめ調べておくと良いでしょう。

一方、インターネットで検索をして問い合わせるのはスピード感やコストの面では効率的ですが、信頼できるパートナーを見つけるためには判断基準を明確に持つことが肝心です。海外進出を希望する企業と、海外進出をサポートする企業をマッチングさせるサービスなどもあるので、条件に応じて利用してみても良いでしょう。

・紹介

JETROや国などの公的機関は国内代理店や海外バイヤーとのマッチングを支援しているので、紹介を依頼することができます。また、既存の取引先や銀行、すでに輸出をしている酒蔵など、信頼できる相手からの紹介も有効な手段です。

一方で、紹介はトラブルが発生した際に関係を切りづらい可能性があることも考慮しましょう。

一度取引を開始すると、条件の変更やパートナーを変えることが難しくなる場合もあるため、パートナー選びは非常に慎重に行う必要があります。例えば、独占権については次の章で詳しく紹介しますが、国内での流通とは異なり、海外輸出では一社に多くの量を任せることになるのに加え、ある程度独占的な取扱いを求められる場合がほとんどです。

1カ国1パートナーという体制に決めてしまえば、連携が取りやすく価格競争を避けられる一方で、一社ですべての販売チャネルをカバーするのは難しいという問題もあります。相手に何を期待するのかを明確にしたうえでパートナー選びをすると、後から不満が生じにくくなります。

契約時の条件面で気にするべきこと

信頼できる相手でも、双方の合意内容を明確にし、誤解やトラブルを防ぐために必ず契約書を締結します。契約書によって各当事者の責任や義務が明らかになると、取引がスムーズに進行するというメリットもあります。以下に、パートナーとなる代理店と契約締結をする際に注意すべきポイントを紹介します。

ポイント注意事項
登録や輸出手続き・外国語ラベルをどちらで用意するかなど、具体的な役割分担を確認
・役割分担を踏まえて、想定以上に出荷コスト(時間・金銭)がかからないか、かかる場合に負担が可能かをよく確認
販売活動・輸出入を行うだけか、プロモーション的な活動もしてくれるのか
・どういった先に強い販路を持っているのか(業態、規模)
・担当者(調達担当者、現地販売担当者)の熱心さや知識レベル
独占権の有無・商慣行としては、緩やかに独占権を設定することが多い
・設定する場合、やり直しが効くよう、条件を具体的に検討/合意しておく(国・地域、期間、売上量条件など)
ロット・年単位や月単位の、具体的な数量を確認(多すぎても少なすぎても課題があるため、現実的な数量を協議のうえ設定する)
品質管理・契約で定めることは少ないが、現地の管理状況をチェック可能にしておくことや、契約解除条項にしておくなどを検討する

※通常の取引では、上記に加え価格交渉が重要となるが、日本酒の輸出において国内渡しの場合は、生産者販売価格(卸値)とすることが一般的であるため、論点になりづらいことから割愛した。

一般的に、小規模な酒蔵と輸出代理店との間では、書面での契約書を締結しないことも多いのが実情です。一方、代理店を選ぶ際には、上記のような観点をしっかり考慮することが必要です。

上記の注意点を踏まえ、国際取引法に高い専門性を持つ渡邊・清水法律事務所の渡邊 肇弁護士ご協力のもと、サンプル契約書、および契約条文解説を作成しました。以下リンク先のフォームより申請いただければ、弊社よりファイルを送付させていただきます。

サンプル契約書 ご申請フォーム

サンプル契約書に触れられているような論点を、取引開始前にきちんと検討し合意していくことが、仮に契約書を締結していなくても、パートナーと長期的に良好な関係を築くことに繋がります。また、契約締結時には、あわせて法律の専門家に相談をすることをおすすめします。

取引開始後の注意点

パートナーとの契約締結が完了すると、ようやく輸出取引を開始するスタートラインに立てます。肝心なのは、ここから継続的な輸出拡大できるように、パートナーとコミュニケーションを取りながらチャレンジを続けることです。思うように売り上げが伸びない場合、「課題は何か」「売れるためにどうしたらよいか」を協議できるような関係性を築けることが望ましいでしょう。

また可能であれば、蔵の代表者が自ら現地を訪問し、市場のリアルな状況を把握することをお勧めします。そしてパートナーである代理店に加え、ディストリビューターや小売店、レストランなど現地のそれぞれの担当者を訪問して情報交換をすることも重要です。

消費者に近いプレイヤーから現地の最新情報や商品に関するフィードバックを直接得られると、商品企画や営業戦略に役立ちます。また、パートナーと同じくらい詳細に現地の情報を持つことで、より具体的かつ建設的な協議ができるようになると、対等で良好な取引関係の維持にもつながります。

まとめ

多くの酒蔵にとって、日本酒の輸出を成功させるには、輸出パートナーの存在が欠かせません。信頼できるパートナーとは、単なる仲介者にとどまらず、酒蔵の輸出方針をよく理解した上で同じ目標を持ち、市場の情報に基づいて販売計画を共に協議できる存在だといえます。

まずは、展示会に足を運ぶなどして、このような信頼関係を築けそうな相手を見つけること。そして、法律の専門家に確認を依頼するなどして注意点を抑えながら、互いの役割分担をはっきり示した契約を締結することが肝心です。

これまで国内取引のみだった酒蔵が、新たに海外輸出を始めることは大きな挑戦です。最初の一歩を踏み出したいと思っても、何から手をつけて良いか分からずに立ち止まってしまうことがあるかもしれません。この記事が、輸出取引を始めるまでの流れを理解し、日本酒を世界に届けるための具体的な行動計画を立てる助けとなることを願っています。

参考文献

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