2023.10
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東京都八王子市に新たな日本酒醸造蔵が誕生。途絶えた八王子の地酒の復活へ - 東京都・東京八王子酒造
東京都八王子市に新たな日本酒醸造所「東京八王子酒造」が誕生し、この夏から酒造りを始めました。長野の酒蔵のオーナーで、八王子で生まれ育った西仲鎌司(にしなか・けんじ)さんが、八王子に途絶えてしまった地酒蔵の復活を決意し、農家や市民の協力を得ながら、10年がかりで夢を実現させました。
市街地の料亭の一部を改修して作った超小型の醸造所にて、八王子産の米と水で美味しい地酒を目指す西仲さんの思いを探りました。
※トップ写真:東京八王子酒造代表・西仲鎌司さん
酒造りが途絶えた八王子の地酒復活を目指す
西仲さんは、八王子で創業した酒類飲料商社の創業家の息子として育ちました。家業の酒問屋が、大手の商品を大量に取り扱うのをメインとしていたことから、「長年、販売量を追い続ける仕事を続けていると、逆に少ない量でもいいから、自分たちの手で造ったお酒も売りたいとの思いが募ってきたのです。父親も同じだったと思います」と話す西仲さん。このため、2005年頃からは、ワイン造りや地ビール造り、日本酒への参入も検討していたといいます。
そんな折の2013年秋、2020年のオリンピックの東京誘致が決まったというニュースを見ます。
「八王子には、かつては多くの造り酒屋があったのに、いつのまにか、自醸している蔵はなくなっていました。それなら、東京五輪の開催までに、自分たちの手で東京・八王子に日本酒蔵をつくり、日本酒を飲んでもらうことはできないかと考えました。ただし、その時点では、日本酒の新規免許を取得するのはほとんど不可能ということは知りませんでした」
その後、国税局に問い合わせて、日本酒業界への新規参入の難しさを知った西仲さん。しかし、時を同じくして、長野の酒蔵の事業譲渡の話が持ち込まれてきました。
八王子から、酒蔵のある諏訪までは特急で2時間弱なので、西仲さんは足繁く通い、「日本酒の世界のことは何も知らないのだから、勉強にもなるし、話に乗ろう」と決心。2014年初頭に、舞姫(諏訪市)のオーナー社長になりました。
八王子での酒米作りを推進し、清酒免許取得の追い風に
生粋の八王子の地酒復活を目指す西仲さんは、諏訪の酒蔵の経営を始めると同時に、市役所に紹介された市内の農家に足を運び、酒米作りを依頼しました。酒米は食用米に比べて倒伏しやすいなど、栽培が難しいため、当初はよい返事はもらえなかったものの、作った米は全量買い取るなどの条件を提示して粘り強く働きかけたことで、一軒の農家が話に乗ってくれました。
ただし、1年目は酒造好適米の山田錦と五百万石を作付けしたものの、山田錦は不作で、五百万石がかろうじて収穫できただけ。地元産の食用米を合わせて、4合瓶2200本を造るのが精一杯でした。「できたお酒、『髙尾の天狗』(新規銘柄)の味も、目指すレベルには届かなかった」と西仲社長は振り返りますが、「八王子の米でできた日本酒が復活」と話題になり、お酒は即完売したそうです。
2年目からは参加してくれる農家も増え、田植えや草取り、稲刈りを手伝ってくれる市民も予想以上に集まりました。さらに3年目の2016年からは、田植えや草取り、稲刈り、蔵の仕込み見学を体験イベントとして企画したことで、より多くの市民が参加。その活動は、2018年にはNPO法人「はちぷろ」として結実し、「八王子に酒蔵を復活させたい」との思いの輪は、八王子市民全体に広がっていきました。
模索した酒造好適米の栽培も、ひとごこち一種に絞ったことで軌道に乗り、造った「髙尾の天狗」の販売も伸びていきました。、八王子での酒造り実現へ追い風を感じた西仲さんは、長野の酒蔵とは別に、八王子の新たな醸造拠点の免許の取得に向けて動きはじめます。酒米を育てる美しい田園風景の広がる地区の一角に酒蔵を作り、八王子の農作物とできたての酒を楽しめるレストラン、農作物や酒を販売する直売所などを併設して、八王子の新たな観光拠点にするという構想を描いていました。
ところが新型コロナのまん延により、計画は白紙に戻ります。そこで西仲さんは発想を変えて、「JR八王子駅近くの市街地にコンパクトな設備を整え、フットワーク軽く、いろいろなお酒をリリースするクラフトサケ的な酒蔵にする」との方針を固めました。
八王子は、大正から戦後まもなくまで、絹産業の街として栄え、「桑都(そうと)」と呼ばれていました。このため多摩地域で唯一の花街がありましたが、その当時の面影を残す黒塀通りには、2022年秋に飲食・物販・演芸などが楽しめる施設もオープン。このプロジェクトと連携することを決めた西仲さんは、通りに面していた料亭「すゞ香」の一部を改修して、「東京八王子酒造」を立ち上げることにしました。そして、2022年12月に、めでたく新規の清酒免許を取得できたのでした。
超コンパクトな醸造所で高品質の酒造りの体制を確立
料亭の厨房を改修したという醸造場は広さがわずか約38平方メートル。麹室(約10平方メートル)もある清酒醸造所としては、日本でもっともコンパクトな規模だと思われます。蔵の中は常に5~8℃に保つことで、一年中酒造りができる体制を整備。蒸しは蔵の外のスペースで行いますが、洗米や蒸した米の放冷などは蔵の中でおこないます。
仕込み用のタンクは大小合わせて5本ありますが、これらは酒母造りや搾ったお酒の一時貯蔵にも活用します。ガラス張りで中が見える麹室は狭く見えますが、箱麹法で二日間かければ上質の麹が造れるそうです。もろみを搾る槽は小型のため、一度に搾れる量に制約があり、しかもできるだけ圧をかけずにおこなうため、上槽が終わるのに三日もかかるそうです。一回の搾りで出来上がるお酒は、四合瓶で200本から1000本になるといいます。
現在の製造責任者は舞姫の杜氏である磯崎邦宏さん。仕込みのたびに、長野から長期出張して酒造りをする予定の磯崎さんは、「長野で麹だけ造って運んでくることも選択肢にはありましたが、八王子は四季醸造であるのに対して、長野では秋から春の期間だけの造りなので、夏場の麹供給に難がありました。それに、なにもかも八王子で造ってこその地酒だ、という意識もあって、麹室メーカーに特別に小さな室を作ってもらうことになりました。コンパクトですが、設備面では先進的な地酒蔵と遜色ないものができたと思っています」と話しています。
東京の10番目の酒蔵として飛躍を誓う
現在は試験醸造の段階で、「東京八王子酒造の酒の味はこれだ」という酒質の酒が安定的に造れるようになったら本格発売をする予定だそう。
目指すお酒について西仲さんは、「これから日本酒を飲もうとしている人たちに喜ばれるようなお酒ですね。軽快だけどしっかり味が乗っていて、甘味と酸味のバランスが取れているワインのイメージに近い味わいにしたい。小仕込みなので、目先の変わったクラフトサケ的なお酒もリリースしたいし、オーダーメイドの注文も受けていきます」と教えてくれました。
販路も、できたてのフレッシュなお酒をすみやかに消費者の口に届けるため、新しい売り方も模索する計画です。「東京の10番目の日本酒蔵として、都内の高級飲食店にもおいてもらえるようなハイエンドのお酒の販売にも力を入れていきます。八王子市民が自慢したくなる酒蔵になることが目標です」と意気込む西仲さん。八王子の新しい地酒が東京を賑わせてくれる未来に、期待が高まります。
酒蔵情報
東京八王子酒造
住所:東京都八王子市中町10-9
社長:西仲鎌司
製造責任者(杜氏):磯崎邦宏
Webサイト:https://www.tokyo-hachioji-shuzo.jp/
お問合せ:https://tokyo-hachioji-shuzo.jp/inquiry.html
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