クラフトサケとは? 日本酒とどう違うの? 本来の意味から具体例まで詳しく解説

2023.10

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クラフトサケとは? 日本酒とどう違うの? 本来の意味から具体例まで詳しく解説

木村 咲貴  |  日本酒を学ぶ

近年、日本酒に関連する言葉として、「クラフトサケ」というキーワードが見られるようになりました。しかし、法的に定められた定義などがあるわけではなく、同じ言葉でもさまざまな事象を指しているケースがあります。今回の記事では、「クラフトサケ」という言葉の持つ意味について、いくつかの事例を見ながら考察していきましょう。

「クラフト」という言葉が本来持っている意味

手芸品や工芸品など、“手作り感”を表す

「クラフトサケ」の「クラフト」という言葉は、英語の”craft”に基づいています。その意味は、ロングマン現代英英辞典によると

自分の手でものを作る仕事または活動で、通常、熟練を必要とするもの(a job or activity in which you make things with your hands, and that you usually need skill to do)

と書かれています。つまり、クラフトには大規模な工場などで機械的に作るのではなく、小さな規模で手作りするというニュアンスがあり、職人技(クラフトマンシップ)という言葉にも関連しています。

アメリカのcraft breweryは小規模醸造所を指す

ビールには「クラフトビール」というカテゴリがありますが、世界最多のクラフトビール醸造所を擁するアメリカでは、クラフトビールの造り手(craft brewer)を下記の3つの要素によって定義しています。

  1. 小規模:ビールの年間生産量が600万バレル(約390万石)以下である
  2. 独立している:酒類関連企業による株式保有比率が25%未満である
  3. 資格がある:TTBから交付されるBrewerとしての資格を持ち、ビールの醸造をおこなっている
    Brewers Association: Craft Brewer Definitionを筆者訳

そのほか、同定義を設けたアメリカのクラフトビール団体Brewers Associationでは、craft brewerに関連するいくつかのコンセプトとして、「革新的である」「地域社会と結びついている」といったキーワードを挙げています。

日本の飲料メーカーが使う「クラフト」という言葉

日本の飲料メーカーもこの「クラフト」というキーワードを用い、クラフトビールのほか、クラフトジン、クラフトコーラなどと名付けられた新しい商品を続々開発しています。英語圏ではcraftという単語自体にネイティブならではのニュアンスがありますが、日本ではどのような意味合いで使われているのでしょうか。

「手作り感」を表す

小規模な醸造所で造られていることにも通じますが、手作り感や職人技をアピールし、大手メーカーの機械的な生産方法と差別化するために使われます。英語圏で地酒が「craft sake」と呼ばれる理由としては、機械的な製造と区別する意味合いが強いといえます。

「希少性」を表す

アメリカのクラフトビールの定義と同じく、小規模な醸造所で造っていることをクラフトと表現するパターンもあります。生産量が少なく、流通経路が限られているなど、希少性をアピールするキーワードとして機能しています。

「こだわり感」を主張する

大手メーカーによるクラフトを冠した商品もありますが、これは上記のような「手作り」や「希少性」にはあてはまりません。従来の商品に比べてこだわりや技術を詰め込んでいるというニュアンスだと考えられますが、アメリカではこのような「クラフト」というコンセプトの使い方を「crafty beer(クラフトっぽいビール)」と揶揄する動きもあります。

クラフトサケとは何か?

それでは、クラフトサケとはどんな意味で使われているのでしょうか。実は法的な定義はなく、それぞれの企業・団体が異なる意味合いで使用しているというのが実情です。例を見ていきましょう。

クラフトサケブリュワリー協会

2022年に、秋田県男鹿市の「稲とアガベ醸造所」を中心に、「クラフトサケブリュワリー協会」が設立されました。この協会では、クラフトサケを

日本酒(清酒)の製造技術をベースとして、お米を原料としながら従来の「日本酒」では法的に採用できないプロセスを取り入れた、新しいジャンルのお酒 (クラフトサケブリュワリー協会公式サイトより)

と定義しています。

この「クラフトサケ」が生まれた背景には、現代の日本では、日本酒の製造免許が新規に発行されないという実態があります。「日本酒を造りたい」という若き醸造家たちが、日本酒に極めて近い醸造酒を造りつつも、副原料を加えたり(※1)、麹米のみで仕込んだり(※2)して法的に「日本酒」と呼べなくしたお酒がこのカテゴリに属します。こうしたクラフトサケは、日本酒に極めて似ているものの、法的には「その他の醸造酒」に区分されます。

※1:日本酒は、酒税法では「米、米こうじ(麹)及び水」を発酵させたものと定められており、副原料とともに発酵させると「その他の醸造酒」になる。

※2:(※1)の理由から、法的に日本酒は通常「掛米」と言われる蒸米と麹米を合わせなければいけないため、麹米のみで造ったものは「その他の醸造酒」になる。

また、どぶろくは日本酒の「米、米こうじ(麹)及び水を原料として発酵させて、こしたもの」という定義のうち「こしたもの」の部分が該当しないため「その他の醸造酒」に区分されます。そのため、クラフトサケ醸造所ではどぶろくを造るところが多いですが、もともと「どぶろく」という独自の名前を持っており、古くから造っているケースもあるため、必ずしもどぶろく=クラフトサケと呼ばれるわけではありません。

クラフトサケの商標

クラフトサケの商標は、ワインをはじめとした酒類の卸売をおこなっている株式会社モトックスが2013年に獲得しています。同社の定義するクラフトサケとは、「モトックスが蔵元と開発した、ワインのように世界で愛されるお酒」のことで、さまざまな酒蔵と開発した同社のプライベート・ブランド商品が該当します。

なお、クラフトサケブリュワリー協会は、株式会社モトックスに許可を得たうえで同協会を設立しています。

JAPAN CRAFT SAKE COMPANY

「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」は、元サッカー選手の中田英寿氏が代表を務める企業で、同氏が厳選した全国の日本酒をテイスティングできる「CRAFT SAKE WEEK」というイベントを開催しています。ここでの「CRAFT SAKE」には、職人魂が込められた手作りの酒という、英語圏での”craft”の意味合いが込められていると考えられます。

KURANDのクラフト酒(しゅ)

酒類のオンラインサイト「KURAND」は、450種類を超える多様なクラフト酒(しゅ)を扱っています。同社の定義によると、クラフト酒とは「小規模生産で、つくり手のこだわりが詰まった」お酒のことであり、日本酒のほか、ワインやビール、果実酒などさまざまな酒類を取り扱っています。

まとめ

このように、「クラフトサケ」という言葉には複数の意味合いがあるのが実情です。とはいえ、2015年に日本酒が「日本産の米を原料に、日本国内で製造されたもの」と改めて定義されたように、その定義は今後変わっていくこともありえます。または、日本酒の法的な定義が新たに見直され、現在クラフトサケと呼ばれているものが日本酒と同じ酒類にカテゴライズされる可能性もあるといえるでしょう。

そもそも、こうした「クラフトサケ」の言葉の背景として用いられている、英語の「サケ(sake)」という単語は、もともと日本ではアルコール飲料全般を表す言葉として使われている「酒」をもとにしています。現在、海外では日本酒やそれに類似した酒類全般を「サケ」と呼んでいますが、この言葉にも正式な定義は存在せず、たとえばアメリカほか海外では、清酒に果汁などのフレーバーを加えた清酒も「サケ」と呼ばれています(日本の酒税法では「リキュール」などに名前が変わります)。

海外諸国のウイスキーの定義にならって2021年にジャパニーズウイスキーの定義が制定されたように、世界にサケが広まっていくにつれて、この言葉自体に法的な定義がもたらされるかもしれません。

まだまだ広い意味合いを持つクラフトサケ。新しい飲みものたちの登場とともに、その言葉の行先にも注目してみませんか。

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