2019.06
23
自然の力で醸すヴィンテージの古酒・熟成酒 − 千葉県・木戸泉酒造
"自然醸造"をコンセプトに酒造りをする千葉県、木戸泉酒造。
ヴィンテージ古酒「玉響(たまゆら)」、長期熟成純米酒「古今」、濃厚多酸酒「afs(アフス)」、樽熟成をかけた「Afruge(アフルージュ)」などさまざまな古酒・熟成酒を造っています。
古酒は全体の石高の10%ほどだそうですが、「高温山廃酛」という独特の手法を取り入れているため、新酒であっても熟成して楽しめる酒質です。
木戸泉酒造株式会社、五代目蔵元兼杜氏を務める荘司勇人さんに、木戸泉の酒造りや古酒、熟成酒の魅力について伺いました。
受け継がれた高温山廃酛づくり
しっかりとした酸味、ふくよかで濃厚なコク、ミントやハーブのような清涼感、力強い個性をもった木戸泉の酒は、チーズやバターを使った洋食とも相性が良く、食中酒にもぴったりです。
木戸泉の酒造りの大きな特徴である「高温山廃酛(※1)」という酒母づくりの手法が、この個性的な味わいを生み出しています。
※1 高温山廃酛:酒母づくりの際、55度の高温にして、乳酸菌以外の雑菌を淘汰する手法。
創業明治12年。3代目の蔵元であった荘司さんの祖父の代にこの製法が開発され、昭和31年から酒造りの現場に取り入れられました。
そこから10年かけて試行錯誤を繰り返し、昭和40年には長期熟成に耐えられる酒造りを開発。本格的に古酒造りをスタートします。蔵の向かいにあるギャラリースペースでは、40年以上前の古酒を筆頭に年ごとに並び、グラデーションをつくっています。
ヴィンテージ古酒「玉響」のベースは、兵庫県産の山田錦の純米原酒。原酒のままタンクで1年間貯蔵し、ろ過してから瓶詰め。瓶のまま貯蔵し、さらに熟成を進めます。古酒として使用する酒は、特別に古酒用の酒質で造るわけではなく、同じ米で造る純米原酒の10本の醪タンクの中から、古酒に向きそうなものを選択しているそうです。
荘司「醪が発酵していく過程を毎日分析して官能しながらトータルで、古酒向きかどうかを選びます。最終的には、絞り終わってから飲んでみたバランスが決め手ですね」
濃厚多酸酒「afs」、樽熟成した「Afruge」
東京農大を卒業後、都内酒販店に勤務していたという荘司さん。2001年から蔵へ戻り、蔵人として酒造りを学び、2013年から杜氏として酒造りを引き継ぎました。
荘司さんが蔵に戻った2001年、熟成を前提として造られた「afs(※2)」の仕込みを復活させました。この「afs」も、荘司さんの祖父の時代に誕生したお酒です。
※2 afs(アフス):afsは、新潟県住乃井酒造、当時の蔵元の安達源右衛門さん、千葉県醸造試験場(現千葉県産業技術支援研究所)初代所長、当時の木戸泉技術顧問の古川董さん、木戸泉酒造、当時蔵元の荘司勇さんと開発に関わった3人の名前の頭文字をとったもの。
通常の日本酒は、三段仕込みといって酒母をもとに、3回に分けて米や米麹を増やしていきますが、「afs」は、高温山廃酛でできた酒母がそのまま一段仕込みで造られています。強い酸味と奥行きある濃厚な味わいが特徴です。
しかし「afs」の製造を1976年で製造を止めていたため、荘司さんが蔵に戻ったとき古酒しか残っていませんでした。「afs」の新酒の味を知りたいと造ってみたところ、思いのほか好評だったのだとか。
荘司「最初は売るつもりがなかったんです。新酒だったお酒がこんなふうに変わるんですよっていう、比較のために造ってお客さんに飲んでもらっていたんです。
そのうち、これも商品としていけるんじゃない? と多くのお客さんに言われ、新酒でも売るようになりました」
2010年から造られている「afs」の樽貯蔵「Afruge」シリーズも人気です。瓶貯蔵していた「afs」を赤ワイン、白ワイン、シェリー樽などに移し、熟成させたものです。
添加物を一切使用しない"自然醸造"
戦後のコメ不足で蔓延していた三増酒(※3)、現在は禁止されていますが、昭和初期には、防腐剤として発がん性物質のサリチル酸が使用されていた時代もありました。表記はされていませんが、日本酒造りにはさまざまな添加物が使用されていました。
※3 三増酒(三倍増醸酒):醸造した日本酒に、2倍の量の醸造アルコールを足し、糖類や酸味料を添加したもの。
早くからその危険性を疑問に思っていた木戸泉では、添加物を一切使用しなくても、長期保存に耐えられる日本酒造りを目指した結果、高温山廃酛を開発したのです。
荘司「前からうちの酒が美味いと思っていたし、自然醸造という考え方にも共感していたので、酒造りのために蔵に入ってからこれまでと変わらない酒造りを続けていこうと決めていました」
今年から酵母も乳酸菌もすべて無添加。原料であるお米も1/3は自然栽培されたものを使用しています。今後もより自然な造りにシフトしていくそうです。長い年月をかけて飲まれる古酒や熟成酒であるほど自然な造りであることは、大きな価値のひとつに感じられました。
木戸泉が考える熟成酒の魅力
古酒や熟成酒の魅力について伺ったところ、「時間というのは二度と戻らないもの。そこに価値や面白さがあると思います」と荘司さん。
もちろん嗜好品である以上、味に好みはつきもの。ただし、さまざまな味を経験していくことで深みや面白さが増していくものだと語ります。
荘司「味は、経験した分だけ幅が広がり面白さが増えるんだと思います。全くの初心者にはとっつきにくいかもしれませんが、知れば知るほど古酒の魅力は増していきます。古酒や熟成酒は、面白い分野ですよ」
木戸泉の醸す時間という価値を、ぜひ一度味わってみてください。
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