2022.07
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「埼玉でしか造れない地酒」を追求する - 埼玉県・藤﨑摠兵衛商店(長瀞)
株式会社藤﨑摠兵衛商店(ふじさきそうべえしょうてん)は、1728年創業の長い歴史を持つ酒蔵です。2014年に経営不振から酒造りを休止しましたが、翌年に鹿児島の濱田酒造株式会社の事業支援を受け復活します。2018年9月には寄居から自然豊かな長瀞に蔵を移転し「日本酒醸造研究所・長瀞蔵(ながとろぐら)」を構え、新たに酒造りを開始。
復活の地に長瀞を選んだ理由や復活から4年経った今の状況、今後の展望などを製造責任者である穐池崇(あきいけたかし)さんにうかがいました。
復活を支えた、長瀞の水と観光資源
以前の蔵があった寄居から移転先の長瀞へは、車で20分程度の距離。それほど離れていない土地を新たな挑戦の場として選んだ理由のひとつは「水」だと穐池さんは話します。
「寄居にいた時は荒川水系の地下水を使っていましたが、今は長瀞風布地区に湧き出す天然水を使って酒造りをしています。名水百選にも選ばれている清らかな水です。寄居で使っていた水よりも少し軟水になったので発酵具合が落ち着いて、できあがってくるお酒も少し柔らかく、落ち着いたお酒になりました」
長瀞は、年間270万人が訪れる観光地。春は桜の名所として、初夏からは川下りやバーベキューが楽しめますし、天然記念物に指定された「長瀞岩畳」や関東屈指のパワースポットとして有名な神社も複数あります。天然のかき氷や蕎麦など、食べ物の名物も多く、観光客が一年中訪れます。
「観光地に蔵を構えているメリットとしては、日本酒が目当てではない観光客の方にもアプローチできる点が大きいですね。うちの売店では長瀞蔵の商品だけでなく、地元の作家さんが作った器やグラス、食料品なども扱っているので『長瀞のお土産屋さん』としても利用していただけます。そこで気軽に試飲をしてもらったり、蔵の見学をしてもらったりして、日本酒に興味を持っていただく機会をつくっていきたいです」
売店の奥に構える蔵には、事前に予約をしなくても麹室などを見学できるエリアが設置され、タイミングがよければ蔵人が作業する様子も見られます。
長瀞に来てからの変化と変わらないもの
長瀞に来るタイミングでたまたま前杜氏が定年退職し、穐池さんが製造責任者である蔵長に就任しました。それと同時に環境も水も変わり、以前と同じ方法で酒造りをしても思うようなお酒はできません。初めは試行錯誤の連続でした。
「酒販店や飲食店などに行って、いろいろな方からお話を聞く機会を作りました。その中で味わいの方向性について、少しずつ調整をしていったんです。今年で4年目なのですが、去年くらいからやっと少しずつ落ち着いてきたかなと思います」
また、長瀞に来てから、造るお酒の種類についても変化がありました。流通環境が以前よりも整っていること、売店でお客様に直接販売できるようになったことから、鮮度の良い状態でお酒を届けられるようになったためです。寄居の蔵では12月ごろの季節商品だった無濾過生原酒を、長瀞では通年で販売。純米の直汲みは長瀞に移ってから造りはじめました。
変化はお酒だけにとどまりません。穐池さん自身も、製造責任者になってから心境の変化があったと語ります。
「以前は友人や家族など、身近な人においしいと言ってもらえるお酒を目指していたんです。もちろん今もその気持ちはありますが、今はもっと広い視野で造るようになりましたね。こちらに来て、売店に立ってお客様の声を直接聞く機会が増えたのが大きいと思います。普段日本酒を飲まない方や若い方にもっと日本酒の魅力を知ってもらって、日本酒業界全体を盛り上げられるお酒を造りたいと考えるようになりました」
体制や造り、心境の変化などがある中で、藤﨑摠兵衛商店として絶対に変わらないものがあります。それは代々受け継がれてきた技で『磨き、心で醸す』という、酒造りにおける指針です。
「お酒造りも日々進化していて、より良い技術や新しい造り方が出てきています。良いと認めたものは取り入れる柔軟さは大切だと思いますが、それ以上に一つひとつのお酒に心を込めて造ることが大切だと信じています。設備や技術が変わっても、藤﨑摠兵衛商店が貫いてきた『技で磨き、心で醸す』日本酒造りは変わりません」
長瀞蔵でしか造れない「埼玉の地酒」を追求する
実は日本でもトップクラスの日本酒出荷量を誇る埼玉。ところが「埼玉は酒どころ」というイメージは、あまり浸透していません。もっと多くの人に埼玉のお酒の美味しさを知ってもらいたいと、藤﨑摠兵衛商店は「埼玉でしか造れない地酒」にこだわります。
原料となる酒米は「さけ武蔵」などの埼玉県産のみを使用し、仕込み水は長瀞風布地区に湧き出す天然水です。 さらには蔵人も埼玉県民で構成されています。埼玉らしさを強く感じられる味わいになりそうですが、穐池さんは「埼玉らしさ」と一言で表現できるような、県単位の味わいの特徴はないと教えてくれました。
「もちろん蔵によって特徴はありますが、新潟の日本酒は淡麗辛口で、西の日本酒は芳醇だとか、県別に味わいの方向性がありますよね。そういった味わいの分布を県別に図で表すと、埼玉はちょうど真ん中にくるんです。蔵によって造り方や味わいの方向性がバラバラなので、平均値を取ると真ん中になるんだと思います。個性豊かな日本酒が揃う埼玉だからこそ枠にとらわれず、うちでしか造れない『埼玉の地酒』を追求できるんです」
穐池さんが考える理想の「埼玉の地酒」は、最初から最後まで食事に寄り添うお酒だといいます。
「最初の乾杯はビールを飲んで、途中はサワーだったり日本酒を飲んで、最後はウイスキーを飲んだりと、料理や気分に合わせてお酒を変える方は多いと思うんです。それを全部、日本酒で合わせられたら最高ですね」
「長瀞と言えば日本酒」を目指して
長瀞はバーベキューや川下りなどの観光地のイメージが強い土地で、日本酒の酒蔵があることは、まだあまり知られていません。
「ワイン好きの方がワイナリーを巡るように『この美味しいお酒が造られた土地に行きたい』と長瀞に足を運んでもらえる日本酒を造りたいと考えています」
復活から4年。日本酒業界だけでなく長瀞の地域活性化も見据えた挑戦は、まだ始まったばかりです。技で磨き、心で醸す「埼玉の地酒」の進化から目が離せません。
酒蔵情報
株式会社藤﨑摠兵衛商店
住所:埼玉県秩父郡長瀞町1158
電話番号:0494-69-0001
創業:1728年
代表者:竹迫昭人
製造責任者(蔵長):穐池崇
Webサイト:https://nagatorogura.co.jp/
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