2020.06

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大都会ニューヨークでSAKEをトレンドに - ブルックリン(アメリカ)・Brooklyn Kura

木村 咲貴  |  酒蔵情報

流行に敏感なニューヨーク州ブルックリンの若者に、いま最も注目を集めるスポット「インダストリー・シティ」。工場と倉庫の跡地にアート・ギャラリーやフード・マーケット、おしゃれなショップの数々が並ぶこの商業施設に、SAKEのクラフト・ブルワリーがあります。

2018年1月、Brian Polen(ブライアン・ポーレン)とBrandon Doughan(ブランドン・ドゥーアン)の二人の男性がオープンしたニューヨーク州初のローカルSAKEブルワリー「Brooklyn Kura(ブルックリン・クラ)」。ここでは、新しいもの好きのミレニアル世代(※1981〜1996年生まれと定義)が、ファッショナブルなアイテムとしてSAKEを楽しんでいます。

(※参考)国税庁の定める「地理的表示」により、『日本酒』と名乗ることができるのは「国内産のお米だけを使い、日本国内で製造された清酒だけ」と規定されているため、ここでは海外で造られたお酒を「SAKE」と表記しています。

金融アナリストと生化学者の出逢い

インダストリー・シティの一角、シンボルマークの刻まれた重たげな青い扉を開けると、ビアバーのような広々とした空間が。工場の跡地らしさを残しながらも、ところどころにカラフルな差し色が目を引くスタイリッシュなタップルームは、地元のデザインスタジオCarpenter + Masonによるデザインです。

タップルームと醸造所を合わせた総面積は、約2500平方フィート。

「一般的なクラフト・ブルワリーよりも少し大きいですよね。これは、それなりの量のSAKEを生産することができなければ、ブルワリー設立のための投資を正当化できないため。一定のキャパシティを担保して初めて、我々のビジネスは成り立つんです」

そう話すのは、Brooklyn Kuraのビジネス面を担当するBrian。元アメリカン・エキスプレスの金融アナリストである彼は、自身のバックグラウンドについて「ビジネスやオペレーションについてはあらゆる経験をしてきましたし、チームや組織のリーダーも務めました。今(Brooklyn Kura)のプロジェクトにももちろん役立っていますね」と語ります。

Brianが共同経営者兼杜氏であるBrandonと出会ったのは、2013年に東京で催された共通の知人の結婚式でのこと。SAKE好きという共通点から意気投合した二人は、アメリカでSAKEの醸造所をオープンしようという計画で盛り上がります。

Brandonはかつて生化学者として、癌や心臓病のための薬剤を研究していました。

「日本酒の醸造所には大きく二つのタイプがあります」と、Brandonはブルワリー設立の参考に訪れた大手酒造メーカーと中小規模の地酒蔵の違いに言及。「(大手酒造メーカーは)大きな研究所があって、あらゆることが分析されていて、見学の時には服を完全に着替えなければならないようなところ。研究者としてのバックグラウンドは、SAKEがいかに可変的なものかということを理解するのに役立っています」と、Brandon。「しかし同時に、私はきちんとしたデータだけに基づいてすべてのことをしたくはないんです。クリエイティブで、自由なものを持っていたい。だから、常に二つの世界を歩き回るようにしています」

多様なラインアップの理由

定番商品は、軽快で華やかな純米吟醸「#14(ナンバー・フォーティーン)」とフルボディタイプの純米酒「Blue Door(ブルー・ドア)」、そしてカリフォルニア産の山田錦のみで仕上げた純米吟醸「Grand Prairie(グランド・プレーリー)」。アメリカのSAKE造りの原料米といえば、酒造好適米「渡舟」をルーツとするカルローズ米がほとんど。これに加え、最近米国内で栽培が始まった山田錦を併用しているBrooklyn Kuraですが、全量山田錦だけで造った商品はGrand Prairieが初めてだと言います。

「Grand Prairieは、私たちのラインアップの中で、最もライトで繊細なお酒です」とBrandon。「カルローズと山田錦の大きな違いは硬さ。カルローズ米はとても硬くて、浸す時間が山田錦の2倍くらいかかってしまうこともあるんです。また、カルローズ米はタンパク質の含有量が多いので、吟醸酒よりもフルボディな純米酒向きだと思っています」。

タップルームではこれらのレギュラー商品に加え、ここでしか飲めない限定酒を含む7〜8種類のSAKEを常時提供。これまでに、#14のしぼりたてや白麹を使った「Citrix」、ホッピー感のある「Occidental」などのユニークな商品が登場しました。

ビールやワインの飲み手は、バラエティの豊富さに慣れていて、多様性を求めている。日系のSAKEコミュニティからサポートを得るためにも、美しく伝統的なSAKEが造れることは証明したいと思っています。しかし同時に、ここはアメリカで、お客さんの好みも(日本とは)異なる。新しくておもしろいものを求めている彼らの興味を刺激する必要があるんです」(Brian)

クラフトビールにヒントを得る

タップルームのカウンター奥には、通常生ビールに用いられるドラフトタワーが並び、注文が入ると、レバーを引いてフレッシュなSAKEを注ぎます。Brian曰く、「ビールサーバーやワイングラスなど馴染みのあるアイテムを使うことで、SAKEに対するハードルを下げられる」。SAKE業界の成長のためには、現地の若者に向けたカジュアルなアプローチが不可欠という考えです。

造りを担当するBrandonもまた、Brooklyn Kuraはビールからかなりのヒントを得ていると話します。

ビールはアメリカでどのようにして人気になったのか? かつてこの国には退屈なビールしかありませんでしたが、ドイツをはじめとしたヨーロッパのビール文化が入ってきたことで、独創的な商品が増えていきました

そう言いながら、「アメリカ人は他の文化のものを取り入れて、ときどき台無しにしてしまうことがあるけれど(笑)」と苦笑いするBrandon。「それでも、アメリカのIPAはいまや世界中で見られるようになった。そういうことがSAKEでも起きなければならないと思っています」。

変わり種の商品については、「実験的なことをしているときは、きちんと実験的なSAKEだと伝える」。

「お客さんのハードルを下げるためにアメリカらしい視点を取り入れているとはいえ、SAKEからまったくかけ離れたものを『これがSAKEだ』と紹介したくはない。だからこそ、基本的には伝統的な方法にこだわっています」(Brandon)

新型コロナウイルスを乗り越えて

2020年、世界的パンデミックを引き起こした新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、3月からロックダウン(都市封鎖)が施行されたニューヨーク州。施行当初、Brooklyn Kuraは拡張工事の真っ最中。インダストリー・シティを訪れるより多くの人々に酒造りの工程を目にしてもらえるよう、新しく購入したスペースに洗米場を建設しているところでした。

工事は中断、施行前には全6名だったスタッフを一部解雇し、一時は製造もストップ。Brandonにオンライン取材を行った2020年6月6日時点はロックダウンの段階的解除のPhase 1(第一段階)であり、製造や工事は再開したものの、タップルームのオープンは依然として禁じられていました。

こうした状況を受け、Brooklyn Kuraでは、公式WEBサイトのオンラインストアにて月額メンバーシップ制度Kura Kinを開始。ニューヨーク州含む4州のお客さんを対象に、毎月異なる限定酒と生酒のセットを届けるという新たな取り組みです。ロックダウン中の時間を利用して、小ロットでの醸造に従事していたBrandon。彼の仕込んだバラエティ豊かなSAKEが、月ごとのリミテッド・エディションとして登場します。

「拡張工事も再開しました。洗米場が完成するころには解雇したスタッフを再雇用し、ほかの蔵人たちの力も借りられるようになるでしょう。より大きくなったスペースでできる最大の製造量に到達できるよう、頑張ります」(Brandon)

大都会のシビアなビジネスを操る冷静さと、新たな挑戦に物怖じしないクリエイティブさを兼ね備え、着実に前進してゆくBrooklyn Kura。ニューヨークのSAKEの未来は、彼らの生み出す新しい飲み手たちとともにあるのです。

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