
日本酒造りの「火入れ」とは - おいしさを長く保つ技術。歴史や使われる設備、やり方やタイミングを解説
酒造りで欠かせない工程の一つである「火入れ」。酒造りの工程を振り返ると、ほとんどの工程でお酒のもとになる酒母や醪は低温を保ち、醸造しています。しかし、「火入れ」の工程だけはお酒の温度を上げることが、品質を保つ役割を担っています。
日本酒は醸造したものを火入れしたあとにタンクで熟成、その後瓶詰め時にもう一度火入れして出荷、という工程が一般的でした。しかし火入れの技術や冷蔵設備の充実などにより、1回のみ火入れの「生詰め酒」や「生貯蔵酒」、火入れをせず出荷する「生酒」の流通も増えており、さまざまな味わいのお酒を飲むことができます。
※生詰め酒、生貯蔵酒、生酒についてはこちらでは「火入れ」とは何か、そして「火入れ」で使われる技術とその進歩を見ていきましょう。
火入れとは
火入れとは、「低温加熱殺菌」を行う工程です。 約60~65℃の温度を一定時間保つことで、酒の品質は損なわずに乳酸菌などの微生物を死滅させ、酵素の働きを止めることができます。火入れがうまくできていない場合、酵素が残存することで「甘ダレ」と呼ばれる味の変化(甘さが増してバランスが崩れること)や、「ムレ香」と呼ばれる香りが香気成分の変化によって発生したり、「火落ち菌」と呼ばれる乳酸菌の一種が繁殖することで、お酒が白濁し酸っぱくなってしまうことがあります。
この火入れの技術、日本では古くから行われており、なんと室町時代の文献(『御酒之日記』。成立は諸説あるが1489年という説が有力。)にその内容が記されています。ヨーロッパでは1866年にルイ・パスツールが発見した加熱殺菌法がワイン製造に導入されるまで同様の殺菌方法は行っていませんでした。室町時代には酵素や乳酸菌の働きは解明されていなかったため、「火入れ」は当時酒造りを行っていた人々の経験則によって導き出されたものでしたが、ヨーロッパの300年以上前からお酒の過熱殺菌という技術が存在していたということは驚きです。
