2021.07
08
日本酒を水で割る?酒造りの「加水」の目的を学ぶ
お酒を搾ったままの「無濾過生原酒」が人気を集めるようになってきています。この中にある「原酒」という言葉は、「加水調整を行っていないお酒」という意味です。
水は、日本酒造りにおける重要な材料の一つ。加水調整に使われる「割水(わりみず)」だけでなく、仕込みに使われる「仕込み水」、そして発酵中の「追水(おいみず)」といった形で、日本酒の味わいを決める上で大切な役割を持っています。
今回は、このうちの「追水」と「割水」がどのようなタイミングで、どういった目的のもとにおこなわれるのかそれぞれの特徴を探ります。またそれに関連して、最近人気の「低アルコール原酒」を造るための方法についても簡単にご紹介します。
発酵中に水を加える「追水」
もろみの発酵中に水を加える操作、またはその水のことを「追水」と呼びます。追水は、「糖化と発酵のバランスをとること」を目的に、もろみ中に適宜行われるものです。
日本酒の発酵を進める酵母には、もろみの糖濃度やアルコール度数が高すぎると衰弱してしまうという性質があります。濃糖環境、高アルコール環境下で酵母が弱ると、発酵が進みにくくなったり、止まったりしてしまいます。これを防ぐために、追水を行うのです。
追水のタイミングや量は、目指す酒質や使用する酵母の性質などを考慮したうえで、発酵中に成分分析をしながら判断されます。適切なタイミング・適切な量で追水をすることでもろみの糖濃度やアルコール度数が下がり、酵母が働きやすい環境を確保します。そうすることで発酵が進み、糖が十分にアルコールに変えられます。
「追水」も含めた、低アルコール原酒の2つの造り方
上記のように発酵を十分に進めてアルコール度数を高める目的とは反対に、「低アルコール原酒」を造るために追水が行われることもあります。こちらも適切なタイミングで水を加えることで、発酵の進み具合をコントロールし、低アルコールの状態で原酒が仕上がるように持っていきます。
この「低アルコール原酒」の醸造方法では、もろみの時点から段階的な追水で発酵の進み方と味わいを整えていくことで、低アルコールで軽快な飲み口と日本酒らしい旨味のバランスを目指します。
追水による方法以外にも、アルコール度数の低い段階で発酵を止めて搾ることで低アルコール原酒を造る方法もあります。こちらは、発酵により糖がアルコールに変えられていない状態でお酒を搾る、つまり甘めになることが多いため、味わいのバランスが取れるように酸の高い酒質を目指すことが多いようです。
これらの醸造方法には高い技術を要しますが、アルコール度数の低い酒が好まれる近年の傾向に合わせて、多くの蔵が低アルコール原酒づくりに取り組んでいます。
上槽後に水を加える「割水(加水)」
もろみを搾ったあとに行う加水を「割水」といいます(単に「加水」と呼ばれることもあります)。多くの場合、割水は濾過・火入れ(タンク貯蔵前の1回目の火入れ)のあとに行われます。
割水の目的は2つあります。1つめは、アルコール度数を調整すること。一般的に、搾った直後の酒には18〜20%ほどのアルコールが含まれており、そこからアルコール度数15〜16%程度を目指して割水が行われます。2つめは、香味のバランスを調整すること。多くの日本酒は、割水によってバランスが整うことを前提に、濃いめの状態で上槽を迎えているのです。
そして、この割水をしていない日本酒を「原酒」といいます。ただし、国税庁が定める原酒の定義に
仕込みごとに若干異なるアルコール分を調整するため、アルコール分1%未満の範囲内で加水調整することは、差し支えない
とあるとおり、加水をしてもアルコール度数1%未満なら原酒と表示してよいことになっています。
これは同じ商品でも毎年、あるいはタンク毎に異なるアルコール度数を調整するため、そして上槽〜瓶詰めの工程でもろみやお酒を移動する際に、ホース等の器具内に残ってしまうものを水を使って移動させる「水押し」の操作のため、とされています。
日本酒造りではこのような事情がある一方、「アルコール度数1%未満の加水」でも原酒と表示できることは、消費者にとっては分かりにくい規定です。そのため「風の森」を醸す奈良県の油長酒造のように、加水を一切行っていないことを示す「無加水」という表示を行う酒蔵もあります。
まとめ
日本酒造りにおいて、仕込み以外に水を加える操作には2つの種類があります。もろみの発酵中に行うものを追水、上槽後に行うものを割水と呼び、それぞれ異なる目的のもとで行われます。
仕込み水だけでなく、追水や割水の際に使われる水の品質も、仕上がる酒の品質に大きな影響を及ぼします。
品質のよい水を、適切なタイミングでうまく用いることが、美味しい日本酒を造る一つのキーポイントなのですね。
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