2021.05
06
英語で日本酒を説明するための実用表現 (4) - 生酛・山廃、熟成酒などを説明しよう
世界中で日本酒への関心が高まるにつれ、国内の酒販店や飲食店でも、海外から来たお客さんを相手にする機会が増えてきています。
このシリーズでは、私・木村咲貴が、アメリカ・サンフランシスコの酒販店「True Sake」の販売員として活動してきた経験をもとに、海外のお客さん相手に使える英会話をご紹介していきます。 英語が苦手な人にとっては簡単で、英語が得意な人にとっては実用的なポイントがつかめる内容にしていますので、ぜひ参考にしてみてください。
前回から、日本酒のカテゴリごとにお酒の製法や特徴を説明する英語を学んでいます。第4回は、製法に特徴のある「生酛・山廃」「熟成酒」に関する表現方法を見ていきましょう。
「生酛・山廃」を英語で説明すると?
「生酛・山廃」を英語で説明すると、下記のようになります。
Kimoto (Yamahai) is a classic brewing method that introduces natural lactic acid bacteria during the brewing process.
(生酛(山廃)は醸造の工程で天然の乳酸菌を取り入れる古典的な醸造方法です)
しかし、相手が日本酒について勉強したいと思っているお客さんでない場合、いきなり微生物の話をして理解してもらえるとは限りません。また、店頭でいざ海外のお客さんを目の前にしたとき、いきなり専門的な英単語を思い出せるとも限りません。そんなときは、下記のような噛み砕いた表現が便利です。
Kimoto (Yamahai) is a classic and time consuming method of brewing.
(生酛(山廃)というのは、古典的な醸造方法で、ちょっと時間のかかる方法です)
噛み砕きすぎているようにも聞こえますが、ここでお客さんに伝えたいのは、生酛・山廃が「ちょっと変わった」製法であり、「こだわりのある」製法であるということ。こう説明してみて、あまり興味がなさそうな反応であれば、味わいの説明に移ればよいでしょう。しかし、相手が興味を示してくれたなら、詳しい説明を付け加えてもよいかもしれません。
・In the most common method, brewers add lactic acid artificially. However, kimoto (yamahai) introduces natural lactic acid bacteria. (Lactic acid bacteria produce lactic acid.)
(最も一般的な造り方では、乳酸を人工的に添加します。しかし、生酛(山廃)は自然の乳酸菌を取り入れます(乳酸菌は乳酸を作り出します))
・Lactic acid prevents the growth of unwanted bacteria.
(乳酸は雑菌の繁殖を抑えてくれます)
好奇心旺盛なお客さんは、さらに「生酛と山廃の違いは何?」「なぜ、わざわざそんな製法を?」といった質問をしてくれることがあります。
・Kimoto uses a paddle to grind the rice, a process called yama-oroshi. Yamahai doesn’t use this process.
(生酛には、パドル(櫂棒)でお米をかき混ぜる「山卸し」という作業があります。山廃にはこの作業がありません)
・Many sake breweries choose these methods because they can produce more desirable tastes.
(より理想的な味が作れるからと、この製法を選ぶ酒蔵も多いんです)
「生酛・山廃」はこんな人におすすめ
海外市場で人気があるのは純米大吟醸やにごり酒。生酛や山廃なんてマニアックなのでは? と思う人もいるかもしれませんが、意外とファンが多いのも事実。特徴的な酸味があるため、ワインを飲み慣れた欧米の人々から高い評価を受けることもしばしばです。
お客さんがどのお酒にしようか迷っているときに、普段ワインを飲む人であれば、生酛・山廃をおすすめしてもよいでしょう。
If you like wine, kimoto and yamahai are great options. You'll love their unique acidity and complex flavors!
(ワインが好きなら生酛や山廃はおすすめです。特徴的な酸味と複雑な味わいが気に入るはずですよ!)
また、お肉料理とのペアリングを探している人にも、生酛や山廃を提案することができます。
It can be a good partner for meat because it has a robust acidity and flavor.
(しっかりした酸味と味わいがあるので、お肉ともよいコンビですよ)
温めておいしくなるお酒も多いので、「Hot sakeが飲みたい!」という人にはぜひ紹介してあげるとよいでしょう。
Kimoto and yamahai taste amazing when warmed!
(生酛や山廃は、温めると抜群においしいんですよ!)
そのほか、生酛・山廃の説明で使えるキーワードの一例をご紹介します。
complex:複雑な
thick:厚みがある ※「味が濃い」というニュアンスもある
massive:どっしりとした
acidity:酸味
umami:旨味
また、正式な英単語ではありませんが、名詞の後に「-y」をつけると、「〜のような(〜っぽい)」というニュアンスを表すことができます。
woody:木のような
earthy:土っぽい
nutty:ナッツのような
milky:乳製品らしい
「熟成酒」を英語で説明すると?
欧米にはワインのヴィンテージ文化が定着していますが、日本酒は搾りたてのほうがおいしいという考えが主流で、熟成させたお酒を見て驚く人は少なくありません。店頭に並ぶ黄金色のお酒を見たお客さんから、「Why is this so brown?(なんでこんなに茶色いの?)」と訊かれることもあるでしょう。
This is aged sake. This sake is aged for 5 years.
(これは熟成酒です。5年熟成させたものです)
そう聞いて、「日本酒は早く飲まなければならないんじゃ?」と怪しむ人もいるかもしれません。
Like wine, sake has a culture of aging.
(日本酒も、ワインのように熟成させる文化があります)
お客さんに好みのタイプを聞いて、「甘いお酒が好き」「蒸留酒が好き」という人にはぜひ熟成タイプをおすすめしてあげたいところです。
・It tastes like caramel, dried fruit, and nuts.
(カラメルやドライフルーツ、ナッツのような味がするんですよ)
・If you like brandy or rum, I recommend it.
(ブランデーやラムが好きならおすすめです)
レベルアップ! 「貴醸酒」の説明とおすすめシーン
熟成酒に並んで一定数の海外ファンの心をつかんでいる貴醸酒。その簡単な説明も押さえておきましょう。
・Kijoshu is a kind of sake brewed with sake instead of water.
(貴醸酒とは、水の代わりに日本酒で仕込んだお酒です)
・It’s sweet and thick like syrup.
(甘くてシロップのように濃厚です)
海外からのお客さんでも、日本酒を飲んだ経験が少なくよい意味で先入観を持っていない人は、熟成酒や貴醸酒を強く気に入ってくれるケースがあります。また、下記のようなさまざまな飲用シーンを提案できれば、暮らしの中に日本酒を取り入れる選択肢が広がります。
・It' s perfect for an aperitif and digestif!
(食前酒や食後酒にぴったりです)
・It's also good over ice cream.
(アイスクリームなどにかけてもおいしいですよ)
濃厚で複雑な甘みが魅力の熟成酒・貴醸酒。お客さんの心に響くどんな味わいが隠れているか、テイスティングをしながら確かめてみましょう。
honey:蜂蜜
raisin:レーズン
plum:プラム
chocolate:チョコレート
roasted nuts:焦がしたナッツ
英語トリビア:Aged SakeとOld Sake
徐々にフレッシュローテーションが習慣化してきているアメリカへの日本酒輸出ですが、かつては食料品とともに一度にたくさん輸出され、何年もかけて売られる時期がありました。日本酒の扱いを理解していない売り手により、何年も劣悪な環境で放置されていたお酒がお客さんの口に入ってしまうなんてことも。このせいで、Old Sake(古いお酒)にトラウマを持ち、「新しい=おいしい」、「古い=まずい」という考えにとらわれている人は少なくありません。
実際のところ、日本酒の飲みごろはお酒によって違います。搾りたてがおいしいものもあれば、熟成させておいしくなるものもある。その多様性や時による変化を楽しめるのが日本酒のよさ。Aged Sake(熟成したお酒)の魅力を伝えることは、海外の飲み手にとって日本酒の世界を広げる大きなきっかけになるはずです。
ちなみに、アメリカでは日本酒のラベルに製造時期を明記しなくてよいことになっています(※)。製造年月を明記せずに輸出する蔵もしばしば見受けられますが、「古いお酒をごまかして売っているのでは?」と厳しい目を向けられてしまうのも事実です。日本でも製造時期の記載はやや曖昧な部分もあるのは事実ですが、どんな情報も包み隠さずにいることが、飲み手への信頼へとつながります。
(※)ワインのラベルに関するルール「連邦規則集第27巻(27 CFR) Part 4 - LABELING AND ADVERTISING OF WINE」が適用される
次回は、アメリカで人気の高い「生酒」「にごり」を説明する英語を学んでいきます。お楽しみに!
接客や英語学習に使えるカードができました!
第1回:「好みを聞いてみよう」はこちら
第2回:「味わいを表現してみよう」はこちら
第3回:「カテゴリごとの表現(吟醸・純米・本醸造など)」はこちら
第5回「カテゴリごとの表現(生酒、にごり酒)」はこちら
第6回「よく聞かれる質問」はこちら
第7回「インバウンド対応」はこちら
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