2020.03
27
稀代の日本酒イノベーター・生駒龍史が日本酒愛を語り尽くす。「日本酒のすべてが好きなんだ!」
今回はSAKE Street取材チームが、日本酒メディアの大先輩「SAKETIMES」を運営する「株式会社Clear」を取材。CEOの生駒龍史さんにインタビューを実施しました。
生駒さんはWEBメディア「SAKETIMES」をはじめ、オンラインサロンや高級日本酒ブランド「SAKE100(サケハンドレッド)」の商品開発から販売まで、日本酒に特化した事業を展開。2020年2月に発表された、2.5億円の資金調達もニュースとなりました。
そんな日本酒界の「スター」がなぜ登場するかというと…きっかけはTwitterの投稿。
SAKE Streetがしっかり取材させていただきます。
※「SAKETIMES」編集長・小池潤さんのインタビューは本記事著者のnoteにて公開中
ビジネスだけじゃない。日本酒が大好きなんです!
――よく、取材をうけていただけましたね……。あのTwitterはどういう意図があったのでしょう?
いやー、僕らって本当に「日本酒メディア」に出てないなって思って(笑)。ビジネス誌ばかりなんですよ。もちろんスタートアップ企業としてビジネスサイドを取り上げていただくのはありがたいのですが…… もっと「日本酒が好き」って言いたいんです。
だって「好き」じゃなければ10年近くも事業できませんよ。かといって経済誌で「俺の酒愛」なんて話すのも違うし…… 僕のこの解き放たれていない気持ちを出したい! と思っていたんです。
――では早速生駒さんの「日本酒愛」をお聞きしたいのですが、日本酒のどこがお好きですか?
全部です (即答)。
――ぜ、全部。
味も好きだし、文化も好き、歴史も面白い、現在進行形の取り組みも面白い、可能性もある。そういった、日本酒を取り巻くありとあらゆる要素に対して全面的な信頼と好感を抱いています。(早口)
それに、僕は日本酒に救われたんですよ。
――救われた……何があったのですか?
いえいえ、何か強烈な原体験があったというわけではありませんよ。 少し昔の話をすると、僕はもともとスタートアップを志していて、最初は海外ファッションブランドのEC事業をしていました。だけど全然うまくいかなくって、バイトを3つ掛け持ちしてたんです。 家賃払えないし、バイト先では酔った大学生に絡まれるし、さらに恋愛関係もうまくいかず……当時は本当にどん底でした。
そんななか「日本酒」に出会って、その魅力を知り、クラウドファンディングへの取り組みやサブスクリプション事業(SAKELIFE)を始めたんです。すると、ここからどんどんうまく行った。
事業に失敗して、社会に何の貢献もできない自分が、日本酒に出会ったことで「何者か」になれた。 日本酒は僕の人生の「分岐点」 といえます。
生駒ルール「日本酒は、飲んでも飲まれるな」
――生駒さんは普段、どのようなお酒を飲まれるのですか?
日本酒ならなんでも飲みますよ。しかし 「日本酒しか」飲まない です。 実は僕、お酒はそれほど強くないんですよ。だいたい2合くらいが限度ですかね、4合はまず飲めない。そうなると、「乾杯でビール」なんてやっているのが「もったいない」んです。 飲める量が限られているのなら、たとえひと口分でも、すべてを日本酒の消費に貢献したい。
ちなみに自宅では、好きな日本酒を自家熟成させて楽しんだりもしています。 最近飲んだお酒では、 鳴門鯛を1年半ほど熟成させたもの とか。
――酔い潰れたりすることはあるのですか?
それはないですね。学生のころはよくヘベレケになっていたのですが、日本酒を「仕事」にしてからはまったくない。
だって、 日本酒の事業をしている企業のトップが、日本酒に飲まれて格好悪い姿を見せるなんてあってはならない じゃないですか。
それと体調管理も重要。日本酒は太りやすいイメージがありますよね。だからこそ僕は絶対に太ってはいけない。それに酒で体を壊すなんてこともダメ。それはメンバーにも話しています。
――Clearの企業理念のひとつに「健康志向でいよう」というのがあるとお聞きしましたが、そういうことだったのですね。
僕たちって、日本酒で多くの人を巻き込んで事業をしていますからね。日本酒に対して「責任」をもたなきゃいけないんです。
(ちなみにお酒を飲みすぎた夜は、ついついチョコレートを買い食いしてしまうそう。なんてかわいい)
「日本酒業界を元気に」を目指してはいけない理由
――これまでのお話を聞いていると、日本酒に対してすごく「真摯」だなと。それが、スタートアップのClearが日本酒業界に受け入れられた所以なのでしょうか?
うーん、立ち上げ当初はなかなか苦労しましたね。だって「日本酒Webメディア」がそもそもなかったから、取材を依頼しても「なにそれ?」という感じで。
だから、自分たちは未知の存在であることを自覚して、すべてに対して誠実に取り組むことを大事にしました。 例えば「蔵においでよ」といわれたら必ず本当に行って話すようにしたし、SAKETIMESでもひとつひとつ、ちゃんとした記事を作ってきた。結局、新しい存在が受け入れられるには、誠実な行動を継続していくしかないと思うんですよ。
――SAKETIMESの成功により、その後さまざまなメディアが誕生しました。それに日本酒インフルエンサーもどんどん登場しており「日本酒業界」の変化を感じます。
僕、その 「日本酒業界」って言葉、あまり使わないようにしている のですよね。よく「日本酒業界を変えたい、元気にしたいです」という話を聞くこともあるのですが、そうじゃないと思うんですよ。
――え、違うのですか?
ええ、 日本酒の魅力を伝えたいんだったら、変えるべきは日本酒業界じゃない。日本酒のことを知らない「世界」の方 なんですよ。
業界に詳しくなるあまり、つい外のことが見えなくなってしまうこともあります。もちろん勉強は絶対に必要ですよ。でもそのうえで、もっと業界の「外」を見ることが大事だと思うんです。
その感情は…「愛」じゃないかもしれない?
――すごいです。日本酒への愛があふれていますね。
……あ、すみません。先ほど「日本酒愛」の話をしましたが……僕の場合、やっぱり「愛」じゃないかもしれない。正直、この気持ちが「愛」なのか、わからないんです。
――はい?
僕にとって、日本酒は「決意」なんですよ。やると決めたことを、やる。 自分の人生のすべてを捧げる。その対象が日本酒です。
この間とある酒蔵の方と話していて思ったのですが、蔵元の人って生まれた時から日本酒と人生を共にすることが決まっているじゃないですか。その重みってすごいと思うんです。
だから僕たちのようなベンチャーが、たった数年がんばっただけで、うまくいくような世界じゃないんですよ。 人生をかけた酒蔵の方と向き合うんだったら、こっちも「人生」をかけなければいけない。
僕は人生をかけたいんです。本当に。
めちゃめちゃ好きですよ、日本酒。でもこれは、やっぱり「愛」とは違います。 そのうえで、日本酒って最高なんですよ。
今はまだ、夢の1%も届いていない
――2019年はオンラインサロンやSAKE100の商品開発そして販売、そして2020年は大型資金調達と、Clearの事業もどんどん加速している印象です。
いや、でもまだまだ。 やりたいことに比べてまだ1%にも届いていません。
――1%にも……? いったい何を目指しているのですか?
目指すは 「日本酒の未来」をつくること。 SAKETIMESやSAKE100で得られた知見や関係性をいかして、世界中で日本酒・SAKEが造られる・飲まれるような未来にしたいんです。
すごいですよね、起業した当初は「日本酒で生計を立てられたら良いな」くらいに思っていたのですが……今は本気で「未来」のことを考えています。事業を通して日本酒と接すれば接するほど、日本酒に対する情熱がどんどん増していっているんだと思います。
もちろん、先は長いですよ。だけど今年は、やっとその1%に届きそうだと思っています。事業の規模やマネタイズなどいろいろな指標を合わせた自分のなかの感覚なのですが……。
――それは楽しみにしています。
ええ、1%にいったら、連絡しますね。
取材を終えて - SAKE Street編集部より -
実はTwitterで初めてSAKE Streetについて呟いていてくださったのは、(内部の人を除くと)生駒さんでした(2019年4月)。その後オンライン上ではやりとりさせていただいたことがあるものの、対面でお会いしたのは今回の取材が初めて。
日本酒メディアをビジネスとして確立した起業家、というイメージでしたが「自宅で日本酒を熟成させる」「初めの一杯から日本酒を飲む」など、日本酒マニアの一人として「あれ?なんかすごい身近に感じる……」と思うことも多い取材でした。
しかし同時に、長い期間、大きな規模で事業として日本酒に取り組んできたからこその覚悟の深さ、視野の広さからは学ばせていただくことが多くありました。SAKE Streetも今回の取材経験を活かして、より広く情報発信に取り組んでいけるよう、頑張っていきたいと思います!
(プロフィール)
生駒龍史(いこま りゅうじ)
株式会社Clear 代表取締役CEO。
「日本酒の未来をつくる」というビジョンを掲げ、日本酒ブランド「SAKE100(サケハンドレッド)」、日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」を運営。
これまでベンチャーキャピタル等から累計3.5億円の資金調達を実施し、日本酒事業のグローバル展開を目指す。『Forbes Japan』にてSAKEイノベーターとして選出。国税庁主催「日本酒のグローバルなブランド戦略に関する検討会」委員も務める。
株式会社Clear: http://clear-inc.net/
SAKETIMES : https://jp.sake-times.com/
SAKE100: https://sake100.com/
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