2020.01
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日本酒に真剣になったら、世界が広がった。 - 発酵料理家・真野遥さんインタビュー
「お酒」と「料理」の組み合わせにより、新しい美味しさを生む「マリアージュ」。近年日本酒専門店を中心に注目を集めるお酒の楽しみ方です。この「マリアージュ」を学べる料理教室を主宰しているのが、 発酵料理家の真野遥さん です。
年間のべ500人以上にマリアージュの魅力を伝える真野さんを取材し、彼女のマリアージュの秘密から、日本酒を仕事にした経緯、日本酒への思いをお伺いしました。
口コミで予約殺到の日本酒マリアージュ料理教室
――真野さんは2018年4月から日本酒と食の料理教室を開催しています。「マリアージュ」と聞くとハードルの高さを感じますが、生徒の多くは日本酒ビギナー。8割が女性だそうです。
真野さん「どちらかというと『日本酒はそれほど詳しくないけど、気になるな…』といった方が多いですね。日本酒初心者・料理初心者大歓迎です」
――レッスンは月に6回。毎月異なるテーマのマリアージュを提案しています。人気の秘密は、月ごとに変わる魅力的な「ペアリングのテーマ」。これまでにも多種多様なテーマを設定されていますが、毎回のテーマはどのように決めているのでしょうか?
真野さん「これまでにやったのは、『地域』(で日本酒と料理を合わせる)や『色』、そのほか『酵母』『酒米』など、日本酒を深掘りできるテーマを設定し、そこから実際にお酒と料理の組み合わせを確かめてメニューにしています。決めるのはいつも結構直前ですよ、先のことまで計画するのが苦手で(笑)」
真野流日本酒ペアリングの鍵は「発酵」
ーー真野さんの料理教室は、座学(現在は動画共有での事前インプット)からスタート。次に本日の日本酒をテイスティングし、お酒の理解を深めた上で調理に移ります。
今回のテーマ(2019年11月)は「生徒さんから集めた日本酒のリクエストに合わせる」。お酒とメニューは次のとおりです。
1品目
日本酒:風の森 秋津穂 純米しぼり華
料理:白菜と柿のシーザーサラダ ゆず風味2品目
日本酒:月山 芳醇辛口純米
料理:大根の唐揚げ3品目
日本酒:出羽桜 貴醸酒 SWeeeeeT
料理:ロシア風水餃子 サワークリーム和え4品目
日本酒:天狗舞 山廃純米酒
料理:牡蠣と麹豚の土手鍋
――サラダに唐揚げ、お鍋、ロシア料理と、バラエティに富んだ4品です。どのようにして、このレシピを導き出したのでしょうか?
真野さん「基本はお酒と料理の『味の共通点』を見つけていくこと。中でも私の場合は味噌や麹などを取り入れることが多いですね。麹の調味料を使うと、麹由来の甘味、旨味、酸味、香りなどが、日本酒に合うんです。ほら、日本酒も麹も同じ『発酵仲間』でしょ。発酵を接点にして、そこからマリアージュのセオリーである『調和』や『相乗効果』『補完』などを考えていきます」
発酵でつなぐ、真野マジックを堪能
ここで、レッスンで実際に作った料理とマリアージュの一部を紹介します。貴醸酒のこっくりした風味がお肉と、甘味と酸味がサワークリームのさわやかさとマッチ。
真野さん「お料理は、ロシアのペリメニを参考にしました。注目は貴醸酒ですね。そのままでもいいのですが、氷を入れて少し『ゆず果汁』をプラス。ヨーロッパで飲まれるミード(蜂蜜酒)のようになり、ぐっと相性がよくなります」
山廃由来のまろやかさ、熟成感が、牡蠣の旨味と好相性。熱燗にするとなおよし。
真野さん「熱燗っていいですよねー。私の印象ですが、冷酒って『おいしい!』って声が出る、口でわかりやすい美味しさ。だけど熱燗は『……おいしい…』って、深いところから声がもれる感じ。ほっと、しみじみ、沁みわたるような美味しさだと思うんです。
レッスンには「レストラン」にはない難しさ、喜びがある
――料理の後はみんなで乾杯。 メニューはどれも自宅で再現できるレシピなのに、専門店のようなマリアージュに感動です。
真野さん「実は料理教室って、飲食店のメニューとはまた違った難しさがあるんですよ。
たとえば、レストランだと『料理』と『お酒』の1対1の相性を高めることが重要ですよね。料理教室の場合はそれに加えて『学び』の要素が必要になります。
料理を学ぶことが目的ですので、お酒と合うからといって同じような味付けや調理法の料理ばかりにはできません。サラダ、スープ、メインなど流れを考えて、和えたり茹でたり、揚げたりと、調理法もバリエーションをつけます。 家庭料理なのでヘルシーであることも重要です」
――メニュー開発が大変そうですね。
真野さん「本当に(笑)、もうパズルみたいです。だけど、日本酒初心者という生徒さんがレッスンに通ってくれて、日本酒を好きになってくれるのを見ると、やっていてよかったなって思います。 あるとき常連の方に『初めて自分で日本酒を買いました!』と言っていただいたことがあって…すごく励みになりました」
「仕事」の日本酒が「好き」に変わった日
――現在は日本酒と料理のプロフェッショナルとして活躍する真野さんですが、かつては日本酒に限らず、「フードコーディネーター」として活動していたそう。どのようにして「日本酒に特化した料理研究家」になっていったのでしょう?
真野さん「元々は、食の演出を行う「フードコーディネーター」を目指していたのですが、初めに目指していたフードコーディネーターの仕事も面白かったのですが、私の場合は日本酒との出会いをきっかけに、もっと食の『中身』にフォーカスしたいと次第に思うようになったんです。
日本酒と出会ったきっかけは、フードコーディネーター学校時代の友人が開催した『青森郷土料理の会』に参加したとき。そこで頂いた青森の地酒が美味しくてガブガブと飲んでしまい(笑)。その会に来ていた日本酒のインターネット番組を制作している方が私の飲みっぷりに興味を持ち、番組に呼んでいただけるようになったんです。
ちょうどその頃は、フードコーディネーターとして自分の強みとなる分野が見つけられずに悩んでいた頃で、最初は「日本酒を強みにしてみるのもいいかな」という軽い気持ちで番組に参加し始めました。
しかし、その番組を通していろいろな地酒のお店にいったり、酒蔵の方にインタビューしたりする中で、心から『日本酒って面白いな』って思うようになりました。
それからは毎日が日本酒の勉強でした。連日日本酒の勉強会やお酒の会に足を運びましたし、日本酒バーの女将もやっていました。1年半くらいですかね、特に集中して学びました」
――そんな中で、特に印象的な日本酒はどれでしたか?
真野さん「神奈川県の『川西屋酒造店』※1です。飲食店の方のつながりで蔵の『呑み切り※2』にお伺いしたのですが、蔵の方が中を見学させてくれたり、お燗の飲み方を教えてくれたりと、本当によくしてくださったんですね。 というのも、どうやら私の飲みっぷりがよかったかららしいのですが(笑)、日本酒の造り手さんの温かさをすごく感じました。それまで『仕事』の一環として取り組んできた日本酒が、大好きになった瞬間でしたね。」
※1 川西屋酒造店…神奈川県の酒造。食と酒、お互いの旨さを引き立てる純米酒を醸すことをモットーとする。代表銘柄は「隆」「丹沢山」。
https://kawanishiya.wixsite.com/kawanishiya
※2 酒蔵が貯蔵している酒の品質検査を行う行事。貯蔵タンクの出し入れ口である「呑み」の栓を「切り」、酒を採取して品質検査を行っていたことから「呑み切り」と呼ばれている。
“日本酒”と向き合ったことで、世界が広がった
――「日本酒」を軸に活躍する真野さんですが、最初は「日本酒の人」と言われることに戸惑いもあったそうです。
真野さん「だってほかにもいろいろな料理の仕事をしているのにって。でも、ある時、料理の師匠の助言を受けて、思い切って自分の専門を『日本酒』に定めたことで、むしろ世界は広がっていきました。
日本酒って、本当にいろいろなことと繋がっているんですよ。『日本酒と発酵』、『日本酒と食』、『日本酒と地域』、それに『日本酒と化学』だってそう。『日本酒』があるから、全然知らなかった領域のことに興味が出てくる んです。
日本酒をきっかけにいろいろな人と出会えましたし、日本酒があるからお仕事も広がりました」
――日本酒に係る仕事をしてみたい方に、メッセージをいただけますか?
真野さん「『やりたいこと』と『できること』と『求められていること』という3つのマルがあったときに、それが全部重なり合うところを見つけてみてほしいなと思います。私にとっては、料理教室がその重なり合う部分なんです。
自分が好きなことを仕事にできるのは素敵なことですよね。好きでやりたいことだから、もちろん楽しい。でも、それを趣味ではなく仕事にするためには、スキルを磨く必要があります。そして、スキルがあったとしても、お客様がいなければ仕事としては成立しない。だから、この三つが欠かせないと思うんです。
ひたすらその三つを、誠実に、地道にやっていくこと が大事なんだと思います。それを発信していけば、周りもきっと見てくれているはずだと思います」
――では最後に、真野さんの考える「日本酒の楽しみ方」を教えてください。
真野さん「日本酒って、本当に自由でいい と思うんですよ。私のレッスンのように料理とともに楽しむ人もいるし、反対にお酒だけを味わう人もいる。深く掘り下げても楽しいし、蔵元さんのファンになるのもいい。
つまり、全部あり!興味の持てる向き合い方、楽しみ方をすればいいと思います」
――ありがとうございました。おまけに、一番飲んでいるお酒は何ですか?
真野さん「今特に好きなのは『川西屋酒造店』さんの『丹沢山』や『上原酒造』さんの『不老泉』などですね。熱燗が特に好きです。
お燗に合うようなお酒は、一升瓶で買うことが多いですね。ほら、日本酒って一升瓶で徐々に飲んでいくと、上の方と下の方で味が変わってくるじゃないですか? そういうのを楽しんだり、どの料理を合わせるか研究したり…そんなふうに、とにかくお酒を“愛でて”楽しんでいます」
(プロフィール)
真野遥 (まのはるか)
発酵料理家
日本酒に合う料理の提案を中心に、レシピ開発や料理教室講師など幅広く活動している。新宿御苑前で、日本酒と発酵食料理のペアリングが学べる料理教室を主宰。年間500名以上に、ペアリングを通じて日本酒の美味しさや料理の楽しさ、伝統的な発酵調味料の魅力などを伝えている。
https://www.harukamano-jozo.com/
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