アル添は悪?日本酒の「醸造アルコール」を正しく理解しよう

2023.08

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アル添は悪?日本酒の「醸造アルコール」を正しく理解しよう

酒スト編集部  |  日本酒を学ぶ

日本酒の中でもアル添(あるてん)と呼ばれるカテゴリがあるのをご存知でしょうか?アル添とは「醸造アルコール添加の日本酒」の略称です。

日本酒を好んで飲む人の中にも、「日本酒は純米しか頼まない」「アル添された日本酒は悪酔いするから飲まない」という人もいます。

「醸造アルコールなるものが体に悪い影響を与える」と考え、アル添を避ける人もいるようです。そもそも醸造アルコールとは何なのか、酒造りにおいてどのような役割を果たしているのか、そしてアル添は純米の日本酒よりも体に悪影響を及ぼすのか。アル添の歴史にも触れながら、幅広く説明していきたいと思います。

醸造アルコールとは

そもそも醸造アルコールとは何でしょうか?「清酒の製法品質表示基準」では、「醸造アルコールとは、でんぷん質物又は含糖質物を原料として発酵させて蒸留したアルコールをいうものとする」と定義されています。

もう少しわかりやすく表現すると、醸造アルコールとは、サトウキビなどを原料とした糖蜜から作られた蒸留酒で、製法としてはラム酒や焼酎甲類に近いものです。まれに誤解されることがあるのですが、工業用などに用いられる合成アルコールとはまったく製法が異なるものです。

醸造アルコールの製成時点のアルコール度数は95%。しかし、入荷後に酒蔵などで保管する場合は60%程度に希釈されます。95%という高いアルコール濃度のままだと、消防法上「危険物」にあたるためです。

そんな醸造アルコールは、第一アルコール(KIRINホールディングス)、宝酒造(宝ホールディングス)、合同酒精(オエノンホールディングス)といった総合酒類メーカーのほか、明利酒類や一本義などの清酒蔵でも製造されています。

アル添ってどうやるの?濃度とタイミング

醸造アルコールは、精製されたときのアルコール度数が95%で、酒造メーカーに入荷した後は60%程度に希釈して保管されると上で述べました。そしていよいよ添加というタイミングで、醸造アルコールはさらに希釈され、アルコール度数30%程度になります。

アル添のタイミングは、基本的には上槽(お酒を搾ること)の直前(もろみ末期)です。これは、酒税法上の「清酒(日本酒)」の定義とも関係しています。酒税法では、搾る前にアルコールを添加した場合のみ「清酒(日本酒)」として認められており、搾ったあとにアルコールを添加したものは「リキュール」になってしまうのです。

なぜアル添するの?醸造アルコールの役割

現在、日本酒に醸造アルコールを加える主な理由は以下の3つです。

  • 腐敗を防ぎ保存性を高める
  • 香りが立ちやすくする
  • キレをよくする

つまり造り手は、自分たちの理想の酒を実現するために、醸造アルコール添加というひと手間を加えているわけです。

ただし、酒造りの歴史の中で、アル添の役割は変遷してきました。以下、その歴史を辿ってみましょう。

意外と長い!?アル添の歴史を紐解く

日本酒にアルコールを添加するようになったのは、意外と昔のこと。江戸時代初期に書かれた酒造りの秘伝書『童蒙酒造記』に、すでにアルコール添加の方法が紹介されています。

「焼酎を少し取り、上槽の五日から三日前に、一割ほど醪(もろみ)の中に加える。こうすると酒の風味がしゃんとし、日持ちが良くなる。」
吉田元『日本農書全集 51 農産加工2 童蒙酒造記・寒元造様極意伝』(農文協、1996 )

上の引用にもあるように、当時は現在のような醸造アルコールではなく、もろみや酒粕から造られた焼酎が添加されていました。これによって味がしまってキレがよくなると同時に、保存性が高まることが知られていたのです。このように焼酎を添加する方法は、「柱焼酎」と呼ばれます。

その後、第二次世界大戦前後になると、江戸時代から続く「柱焼酎」とはまったく別のアル添酒が登場します。通常の酒造りで生成されるアルコールの2倍もの醸造アルコールを添加し、最終的に3倍の量の酒を造るこの方法は、「三増酒(三倍増醸酒)」と呼ばれました。

三増酒は、戦間期の米不足・酒不足を背景として生まれました。しかし戦後は、単に酒造りのコストを抑えるために三増酒が製造されていた側面があります。そういった三増酒の中には、質の悪い酒も少なくありませんでした。

上記のような流れを経て、先に述べたように、現代におけるアルコール添加のあり方にたどりつきました。

アルコール添加の目的について、江戸時代の「保存性向上」「味の調整」 に加え、「吟醸酒の華やかな香りを増幅させること」が加わりました。これは、吟醸酒の製造技術の発展に伴って新たに生まれたアル添の効果といえるでしょう。

吟醸酒のフルーティで美しい香り(吟醸香)の成分は、水に溶けにくくアルコールに溶けやすい性質を持ちます。そのため、発酵を終える間際のもろみにアルコールを添加することで、吟醸香の成分をより多く取り込むことが可能になるのです。

現代のアル添技術が持つ価値は、全国新酒鑑評会の結果にも現れています。アル添酒の入賞率が50%以上であるのに対し、純米酒の入賞率は平成30(2018)酒造年度まで10%程度。令和に入って(2019酒造年度)以降の鑑評会では純米酒の入賞率も30%以上に向上しているものの、吟醸酒として華やかな香りとキレの良さを併せ持つアル添の特徴が、依然として高く評価されていることがわかります。

また現在は、アルコールの添加量に関する規制も設けられています。1976年の酒税法改正時に、製造場ごとに白米1tあたりアルコール100%換算で280Lという限度が設定されました。さらに1990年の同法改正により、特定名称酒(本醸造、吟醸、大吟醸)において、アルコール95%換算で白米使用量の10%以下という制限も追加されました。

そして2006年には、「三増酒」が造れないようになりました。 酒税法の改正により、三増酒は清酒とみなされないようになったためです。具体的には、糖類などほかの副原料を含めて、添加物の合計重量が白米使用量の50%以下に制限されることとなりました。実際にはこれほど多くの副原料が使われることはありませんが、この規制は酒の品質保持に一役買っていると言えます。

なぜ醸造アルコールは悪者扱いされる?実際のところは?

冒頭で述べたように、「醸造アルコールは悪酔いする」などの理由で、アル添の日本酒を避ける人がいます。このような「醸造アルコール=体に悪いもの」というイメージは、かつての三増酒から来ていると考えられます。コストダウンだけを目的に造られていた三増酒の中には、たしかに悪酔いをもたらす低品質の酒もあったかもしれません。そうしたネガティブなイメージが、『美味しんぼ』(雁屋哲作)などの創作物を通して助長されてきた側面もあります。

しかし今日では、醸造アルコールはアルコール量を増やす目的で使われることはあまり多くありません。「大吟醸」「吟醸」「本醸造」といった特定名称酒においては、増量目的で使われることは皆無で、上でも解説したように、むしろ香りや味わいを改善しよりよい酒質を作るために醸造アルコールが使われています。

そもそも実際には、醸造アルコールは米の発酵で生成するアルコールと同じエタノール。例えば、チューハイにも使われているものです。現代では品質検査も厳しく行われており、醸造アルコールを加えただけで体に悪影響が出るような日本酒になることはないと考えてよいでしょう。

醸造アルコールと特定名称との関係

醸造アルコールが添加されている特定名称酒には、「大吟醸酒」「吟醸酒」「特別本醸造酒」「本醸造酒」があります。それぞれの定義は、以下のとおりです。

  • 大吟醸酒
    精米歩合50%以下
    吟醸造り
  • 吟醸酒
    精米歩合60%以下
    吟醸造り
  • 特別本醸造
    精米歩合60%以下または特別な製造方法
  • 本醸造
    精米歩合が70%以下
    使用できる醸造アルコール量は、米の重量の10%まで

このほかの特定名称酒、つまり「純米」というキーワードが含まれる日本酒は、醸造アルコールが添加されていない酒です。

特定名称醸造アルコール吟醸造り精米歩合
純米大吟醸不使用50%以下
純米吟醸不使用60%以下
特別純米不使用-60%以下 または 特別な製造方法
純米不使用--
大吟醸使用50%以下
吟醸使用60%以下
特別本醸造使用-60%以下 または 特別な製造方法
本醸造使用-70%以下

(※)精米歩合とは、米の精米の程度を表したもの。数値が低いほど、雑味等の原因となる米の外側部分を多く削っている。
(※)吟醸造りとは、低温でゆっくりと発酵させ、特有の華やかな香り(吟醸香)を持つように醸造すること。

そして上記の特定名称酒に区分されない酒は、一般に「普通酒」と呼ばれます。普通酒については以下の記事で詳しく解説していますので、併せて参考にしてください。

アル添酒の例とそれぞれの簡単な特徴

アル添酒とひと口に言っても、もちろん香りや味わいはさまざまです。たくさんの魅力的なアル添酒が造られていますが、その中からいくつかの銘柄をご紹介します。

十四代 本丸 秘伝玉返し 特別本醸造(山形・高木酒造)

メロンやリンゴのような華やかな果実香と、すっきり心地よい飲み口を楽しめる特別本醸造酒。「十四代」シリーズを代表する銘柄です。

添加されている醸造アルコールは、自社製の純米粕取り焼酎を水で割ったもの。「秘伝玉返し」とは、このアル添技術を表しています(「玉酒=酒を水で割ったもの」を酒に「返す」)。

剣菱 / 黒松剣菱 / 極上黒松剣菱 (兵庫・剣菱酒造)

500年以上変わらぬ味わいを守り続ける剣菱酒造。そのアル添酒には「剣菱」「黒松剣菱」「極上黒松剣菱」と3つのラインナップがあります。添加される醸造アルコールは、いずれも米から作られたものです。

銘柄ごとに原酒をブレンドする際の調合が異なり、軽やかできりっとしたキレが印象的な「剣菱」、旨味・酸味・辛味の絶妙なハーモニーが楽しめる「黒松剣菱」、そしてより複雑で洗練された力強さを持つ「極上黒松剣菱」と、それぞれ異なる魅力を味わえます。

美寿々 本醸造(長野・美寿々酒造)

長野・塩尻の軟水で造られる、やわらかな本醸造酒です。炊きたてのお米を思わせる、やさしい香りとほっこりした味わい。その中でほのかに主張するアルコールの刺激が全体のバランスをまとめ、ちょうどよい美味しさを生み出します。

キレ味も穏やかですっきり。幅広い料理に寄り添ってくれる、食中酒として万能な本醸造酒です。

すごい!!アル添

SAKE Streetが岩手県の菊の司酒造とともに開発した、“アル添のすごさ”を体験できるプロダクト。純米酒・焼酎・アル添酒の3本と、計量ショットグラス&スポイトがセットになっています。

究極の蒸留酒と至高の醸造酒をブレンドすると何が起こるのか……それをご自身で実験し、醸造アルコール添加によるドラマティックな変化と、アル添だからこそ実現する奥行きある味わいを実感できます。

SAKE Street オンラインストア「すごい!! アル添 3本セット」

まとめ

純米の日本酒に純米の良さがあるように、醸造アルコールを加えたアル添酒にもアル添酒ならではの良さがあります。

「アル添=質の悪い安酒」というイメージは、現代には当てはまりません。アル添の銘酒はいくつも存在し、その魅力のあり方も多彩です。今は、さまざまなアル添酒の美味しさを楽しめる時代が到来しているのです。

ぜひこの機会に、いろいろなアル添酒を発掘してみてはいかがでしょうか。

参考文献

・SAKE Street メディア「日本酒の「表示義務のない添加物」ってなに? - 米、米麹、水「以外」の原料・資材を学ぶ」(2023年08月18日閲覧)
・「清酒の製法品質表示基準」(2023年8月18日閲覧)
・吉田元「日本農書全集 51 農産加工2 童蒙酒造記・寒元造様極意伝」(農文協、1996)
・公益財団法人日本醸造協会編「増補改訂清酒製造技術 新版」(日本醸造協会、2009)
・SAKE Street オンラインストア「すごい!!アル添」(2023年8月18日閲覧)

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