山形を代表する「出羽燦々」とは? 吟醸王国を支える酒米の系譜や歴史、魅力を解説

2025.06

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山形を代表する「出羽燦々」とは? 吟醸王国を支える酒米の系譜や歴史、魅力を解説

新井 勇貴  |  日本酒を学ぶ

山形県は吟醸酒の製造比率が他の都道府県よりも高いことから、吟醸王国と称されていることをご存知でしょうか?

透明感があり、華やかな香味を持つ山形県の吟醸酒は多くの人に愛されています。本記事で紹介する酒米「出羽燦々(でわさんさん)」は、こうした山形県の特徴となる酒質を生み出した立役者です。

本記事では出羽燦々がどのように誕生し、吟醸王国を形づくったのか、その魅力と背景に迫ります。

出羽燦々とは?

山形県は江戸時代に庄内藩が農政を進めた影響もあり、米に対する研究が盛んな地域です。現在でも兵庫県に次いで酒造好適米の種類が多く、新たな開発に対する姿勢も積極的です。

そんな山形県産の代表的な酒米である出羽燦々は1985年(昭和60年)より、山形県が酒造組合やJAと協力しながら開発に着手しました。

出羽燦々は酒米に求められる要素である大粒、心白発現率が高い、タンパク質含有量が低いといった要素を満たしています。さらに吸水性にも優れ、蒸米時の吸水率が高いといった日本酒造りに適した特徴を持ちます。

柔らかく溶けやすいお米であり、日本酒造りで表現できる味の幅が広いことから、現在でも多くの酒蔵に重宝されています。

耐冷性に優れ、倒伏しにくいといった栽培時のメリットも多いため、生産量において常に全国10位以内に入る酒米です。

出羽燦々の歴史

出羽燦々の育成が始まる前の山形県内では酒米(醸造用玄米)が不足しており、一般的な食用米を用いた日本酒造りが中心でした。こうした情勢から、長野県を産地とする「美山錦」の試作、栽培技術改善が進められ、県の優良品種に採用されました。

しかし、美山錦は長稈である(地面から穂首までが長い)ことから倒伏しやすい上に、心白発現率の地域差、年次差が大きいという課題がありました。

農家は栽培面・経済面のメリットを求め、酒造業界は醸造特性に優れた県産オリジナル品種を要望。こうした状況を受け、1985年(昭和60年)に山形県立農業試験場庄内支場(当時)にて、新品種の育種・交配が始まったのです。

生産力検定試験から奨励品種決定調査にわたる6年の試験の結果、出羽燦々は美山錦と比較して以下の成績を残しました。

  • 出穂期、成熟期は2日程度遅い中生種
  • 稈長は5〜6cm短く、やや長稈ではあるが倒伏に強い
  • 精玄米量は美山錦と比較して107%と多収
  • 玄米千粒重は25〜26gと1g程度大粒
  • 外観品質が優り、心白発現率も高い

参考文献:山形県立農業試験場研究報告ー酒米新品種「山形酒49号」の育成

1991年(平成3年)には「山形酒49号」という系統名が付けられましたが、1997年(平成9年)の品種登録時には「出羽(現在の山形県一帯の旧国名)が燦々と輝くために」という想いを込め、出羽燦々と命名されました。

こうして山形県の農家、酒造業者の要望に応えた念願の山形県オリジナル品種が誕生したのです。

出羽燦々の系譜

出羽燦々は美山錦を母、「青系酒97号(のちの華吹雪)」を父に持ちます。

長野県で誕生した美山錦は「たかね錦」に放射線処理を施し、変異を誘発して誕生した品種であり、前述したとおり、出羽燦々の登場以前の山形県では醸造用玄米として重宝されてきました。

華吹雪は寒さの厳しい青森県において、耐冷性に優れた品種として1985年に誕生。地面から稲首までが短いため倒伏耐性に強く、極大粒であり、心白の発現率も高いという特徴を持ちます。

出羽燦々はその誕生から10年後、滋賀県生まれの酒米である「吟吹雪」と交配することで、耐冷性を高めた「出羽の里」を生み出しています。これによって、山形県はさらに多様性を持った酒造りが可能となりました。

山形県だけで生産される出羽燦々

出羽燦々の産地は発祥地でもある山形県であり、他の都道府県で栽培されることはありません。県を代表する酒米として広く栽培されている中でも、金山町と新庄市は出羽燦々の産地として有名です。

金山町

県北東部に位置する金山町(かねやままち)は、美しい景観保持・創造や地域産業の活性化を目的とした「風景と調和した街並み景観条例」を制定するなど、自然環境に対する取り組みを推進しています。

金山町では1986年(昭和61年)より酒米づくりを始めており、現在では「酒米の里」として出羽燦々をはじめとした酒米の作付けをおこなっています。

売れやすい米作りの一環として契約栽培の取り組みも行っており、出羽燦々については特定認証やGAP認証(※1)を実施。県内外で高く評価される銘柄に使用されるなど、その品質は酒造業者から信頼されています。

※1:農業者が実施するGAP(Good Agricultural Practices)の取り組みを第三者が審査し証明する民間の認証制度。農畜産物を生産する工程で生産者が守るべき管理基準とその取り組みを指し、「良い農業の取り組み」や「農業生産工程管理」などと訳される。

新庄市

県北東部に位置する新庄市には「ゆびきりげんまん」という酒米研究会があり、高い技術力をベースにした酒米生産に取り組んでいます。出羽燦々の登場をきっかけに2名の農家が酒米の作付けを開始。2009年(平成21年)に作付け拡大の要望を受け、規模の拡大とともに研究会の設立に至りました。

県酒造適性米生産振興対策協議会が主催する「優良酒米コンテスト」では、2014年(平成26年)からほぼ毎年のように表彰を受けるなど高い評価を得ています。

酒米作りに取り組んだ時期は県内において後発ですが、現在の作付面積は県トップへと成長。今後もより一層品質の高い酒米の栽培が期待されています。

生産量、県内における割合

出羽燦々は2022年(令和4年)、1,313トンが収穫されました。これは全国の酒米生産量順位において6位にランクインする生産量です。

山形県で生産される酒米の約40%を占めており、その子にあたる出羽の里(同年生産量569トン)を含めると県内の約60%と圧倒的な存在感を示します。

登場から30年以上が経った現在でも、出羽燦々は山形県を代表する酒米として県内外のファンから愛され続けているのです。

「DEWA33」表示の名前の由来にも

出羽燦々の開発・育成と同時に、山形県ではオリジナル酵母や麹菌の研究開発も進められてきました。そして「山形酵母」 、山形県独自の麹菌である「オリーゼ山形」が誕生。山形県の豊かな水、米、そして酵母と麹まで「オール山形」で日本酒を醸せる環境が整ったのです。

現在、以下の条件を満たす酒に対して「DEWA33」 表示と、「純正山形酒審査会認定証」を与える独自の企画を推進しています。

  • 出羽燦々を100%使用
  • 精米歩合55%以下の純米吟醸酒
  • 山形酵母とオリーゼ山形を使用
  • 県内の仕込み水を使用

DEWA33という名称は県内にある1400メートル級の山の数「33」と、出羽燦々の名称などからヒントを得て命名されました。山形県を代表する酒米としての存在感が、こうしたエピソードからもうかがえるでしょう。

まとめ

本記事では山形県念願のオリジナル酒米として誕生し、現在も県を代表する酒米として愛され続ける出羽燦々の魅力や背景を解説しました。

DEWA33の表示条件に精米歩合55%以下が定められているように、山形県は吟醸酒造りを大切にしています。オール山形で生み出す日本酒の香味はまさに山形県の結晶だといえるでしょう。

山形県内の各酒蔵で出羽燦々を使った日本酒が醸されています。山形の風土と技術が織りなす味わいをぜひ楽しんでください。

参考文献

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