酒米のダイヤモンド「愛山」とは? ― 酒蔵が守り継いだ幻の酒米の特徴・歴史・産地を解説

2022.04

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酒米のダイヤモンド「愛山」とは? ― 酒蔵が守り継いだ幻の酒米の特徴・歴史・産地を解説

酒スト編集部  |  日本酒を学ぶ

愛山は、1941年に兵庫県で誕生した酒米です。一度は育種が打ち切られながらも、酒蔵の努力によって守り継がれ、今では“酒米のダイヤモンド”と呼ばれるほどの人気を誇ります。

本記事では、愛山の歴史や特徴、系譜、そして味わいについて解説します。

愛山とは?

愛山は、兵庫県で生まれた酒造好適米の一種です。粒が大きく、心白(しんぱく)発現率が高いことから、甘くてジューシーな日本酒を生み出すことで知られています。

生産量が少なく希少であることから、「酒米のダイヤモンド」とも称されています。もともとは戦前に誕生した品種ですが、品質課題によって一時は育種が中止に。しかし、地元農家と酒蔵による努力で命をつなぎ、現在では全国の酒蔵で高い人気を集めています。

愛山誕生の経緯と育種の打ち切り

愛山は1941年に兵庫県立農事試験場酒造米試験地(現・兵庫県立農林水産技術総合センター酒米試験地)で誕生しました。1949年より兵庫県立農事試験場福田原種圃にて「愛山11号」として特性調査が行われ、粒が大きく心白の発現率も高い、優れた酒米として注目されました。

しかし、当時は品質上の課題があったことから、1951年には育種試験が打ち切られることになります。

参考:株式会社アスク「あぜ道日誌:幻の酒米”愛山”を田植え

愛山を守った剣菱酒造と高木酒造

打ち切られたあとも酒米試験地が所在していた加東郡社町では、一部の農家で栽培が続けられました。こうしたなか、農家との契約栽培を行うことで、愛山11号の窮地を救ったのが同じ兵庫県の剣菱酒造です。剣菱酒造との契約によって小規模ながらも安定した栽培が続き、名称を「愛山」として復活しました。

しかし、1995年の阪神淡路大震災では剣菱酒造が大きな被害を受け、愛山の買い切りが難しくなってしまいます。その際、以前から愛山に注目していた山形県の高木酒造が愛山を買い付け、同蔵の銘柄「十四代」に使用しました。

やがて酒米の評判が高まると、他の酒蔵でも使用されるようになり、さらには兵庫県外でも栽培されるようになっていきます。

日本酒の需要が減少する中でも、愛山は高い人気を維持し続け、現在もなお生産量は増加傾向にあります。それでもまだ生産量は非常に少なく、全国の酒蔵から強い需要があることから高い価格で取引されており、「酒米のダイヤモンド」と呼ばれるにふさわしい地位を築いています。

愛山の特徴

山田錦を超える!愛山の「千粒重」と「心白発現率」

愛山が酒米として特に優れている点は千粒重と心白発現率です。

千粒重とは、1,000粒を合計した際の重量のこと。千粒重が大きいほど、酒米の粒の形状が大きく、粒の張りが良いとされます。愛山の千粒重は30g前後と非常に大きく、「酒米の王様」と呼ばれる山田錦を上回る場合もあります。

参考:池上 勝. 「酒米試験地の設立と初期品種系統「兵庫雄町」「山雄67号」および「愛山」の育成経過」. 兵庫県立農林水産技術総合センター研究報告(農業編)第54号, 2006年, p. 33-41, 参照 2025年11月13日).

心白発現率とはでんぷんの塊である「心白」が発現する割合です。心白とは、米の中心部に現れることのある白く不透明な部分のことで、この部分が大きいほどタンパク質・脂質の含有量が少なく、酒造りに適しているといわれます。

一方で、心白が大きい分、高精白(米を削る割合が高い精米)にすると砕けやすいという欠点もあります。そのため、扱う酒蔵には高度な精米技術が求められます。それでもなお、愛山が多くの酒蔵に選ばれるのは、その味わいの豊かさゆえです。

愛山を使った日本酒の味わいとは

心白発現率が高く、吸水性の良い愛山は、もろみに溶けやすい性質を持っています。この特徴によって雑味が出てしまう場合もありますが、うまく活かすことで、濃醇な風味を持つお酒に仕上がります。

このような性質から、愛山は甘くてジューシーな日本酒によく使われます。同じような酒質を生み出す酒米として、雄町を好む人々からも支持を得ています。

また、高精白にしにくい特徴を持ちながらも、高価な酒米であるため、華やかな香りを多く出す酵母を使い、吟醸づくりを行うことで付加価値を高めた日本酒にもよく使われています。

愛山の系譜と産地

愛山の系譜は「雄町」から

愛山は1941年、兵庫県立農事試験場酒米試験地で母を「愛船117」とし、父を「山雄67」として誕生しました。母方の「愛」と父方の「山」が名前の由来です。

山雄67は、山田錦と雄町から誕生した酒米です。愛船117も、雄町から同型の遺伝子をもつ系統を分離(純系淘汰)した「船木雄町」を親に持っています。このことから愛山は、雄町の血統を強く受け継いでいると言えます。

愛山の主な生産地は兵庫県

愛山の主な産地は、発祥地でもある兵庫県です。栽培が難しい品種であるため、兵庫県外での栽培はそれほど多くありません。生産地が限られていること、比較的育てにくいことも、酒米のなかでも高値で取引される理由になっています。

愛山は兵庫県内では、山田錦に続いて二番目に生産量の多い品種(※)です。

参考:農林水産省「酒造好適米の農産物検査結果(生産量)と令和5年産の生産量推計① (産地品種銘柄別)

兵庫県以外では、たとえば茨城県筑西市の桑山にある農場「百笑米(ひゃくしょうまい)」では、有機栽培によって愛山が生産されています。

まとめ

今回は、剣菱酒造によって守られてきた酒米「愛山」について解説しました。一度は育種が打ち切られながらも、その濃醇な風味と香りの豊かさから今では多くの日本酒ファンを魅了しています。

愛山を使用した銘酒を味わいながら、その奥深い歴史と味わいの違いを感じてみてください。

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