2021.02

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日本酒輸出時代に、改めて学んでおくべき「商標」(1) - 海外でロゴをパクられました

二戸 浩平  |  SAKE業界の新潮流

2019年に開設した当メディア「SAKE Street」ですが、ありがたいことに一部の英語記事、あるいは機械翻訳等を通じて海外の日本酒業界関係者や熱心な日本酒ファンの方々にもご愛読いただいているようです。

そんな海外読者様の一人から、つい先日「私の国で営業している企業のロゴがSAKE Streetのものと似ているが、なにか関係があるのか?」というお問合せをいただきました。送っていただいたリンクを開いてみると……

「完全に一致」という言葉が、これほどキレイに頭に浮かんだ体験は人生で初めてのことでした。SAKE Streetのロゴはすでにメディアの読者様や店舗のお客様にも親しんでいただいており、また『日本タイポグラフィ年鑑2020』にも入選した思い入れのあるものです。

当該企業に連絡をとった結果、幸いにも上記ロゴを今後使用しないことと、SAKE Streetとは関係ない旨を今後説明することを約束いただけました(発注先のデザイン会社が起こした問題だった、とのことでした)が、もしここで揉めていたら……と、「商標」の重要性を意識させられる出来事でした。

日本酒の海外輸出が増えるに従い、ブランド保護の重要性もますます上がってきています。一方、ごく一部の先進的な企業を除いては、これまでと変わらない対応しか行っていないところが多いのが現状ではないでしょうか?

そこで今回はこの「ロゴ盗用事件」をきっかけに、これまでの弊社の取り組み状況にも反省しつつ、「日本酒と商標」について全力で調べてみましたので、注意喚起のためにもその内容を共有してみます。

商標の基礎知識

そもそも商標とは?

はじめに、そもそも商標とは何かについておさらいしておきましょう。日本で商標権を管轄する特許庁のウェブサイトには以下のような記述があります。

商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)です。
(中略)
このような、商品やサービスに付ける「マーク」や「ネーミング」を財産として守るのが「商標権」という知的財産権です。
商標には、文字、図形、記号、立体的形状やこれらを組み合わせたものなどのタイプがあります。

つまり日本酒の場合、銘柄名やそれを示すロゴなどが商標にあたり、それを保護するために商標権という知的財産権がある、ということになります。

下記のように、商標権を取得するためには、特許庁への出願・登録が必要になります。

商標権を取得するためは、特許庁へ商標を出願して商標登録を受けることが必要です。商標登録を受けないまま商標を使用している場合、先に他社が同じような商標の登録を受けていれば、その他社の商標権の侵害にあたる可能性があります。

さらに上記の記述のなかで重要なのが「先願主義」。先に使用していた商標であっても、日本では原則として特許庁に対して先に出願手続きをした事業者の権利が優先(※1)されます。

(※1)先に使用していた商標が、別の事業者により商標出願・登録されてしまった場合、裁判等において「先使用権」を主張することもできます。しかしこの場合、裁判等の手続きを経る必要があり、また先使用権を認められるためには「ある程度有名であること」など一定の条件を満たす必要があります。

加えて、商標権について理解しておくべき点は「登録した国でのみ有効」であるということです。商標権は国・地域ごとに分かれており、たとえば日本で出願・登録されていても、アメリカや中国等、他の国では権利の保護を受けることができません。日本酒の輸出先として注目される機会の多い香港や台湾は、それぞれ中国とは独立した商標制度を持っている点にも注意が必要です。また、制度の内容も国によって異なっており、例えばアメリカは先ほど見た「先願主義」と異なる「先使用主義」と言われる制度を持つため、商標出願にあたっても使用実績の証明が求められます。こうした国による制度の違いは、特許庁のWebサイトにも概要がまとめられています。

また、商標は「どのような商品やサービスが対象になっているのか」を明確にして出願・登録する必要があります。特許庁のWebサイトでは以下のように説明されています。

商品及び役務の区分は、商品・役務を一定の基準によってカテゴリー分けしたもので、第1類から第45類に分けられています。
商標登録出願に当たっては、その商標を使用している又は使用を予定している商品・役務を指定し、その商品・役務が属する区分(類)を願書に記載しなければなりません。

「商品及び役務の区分」は、特許庁のWebサイトに掲載されています。なお、この分類は国際分類に従っていますので、海外で登録を行う場合にも、基本的には同じ分類を参照・使用することができます。

たとえば日本酒の場合には、第33類「ビールを除くアルコール飲料」が該当する区分になり、「清酒」という商品を指定する必要があります(※2)。日本酒だけでなく、酒粕焼酎やリキュールを同ブランドで展開する場合には指定する商品を増やすことになります。

(※2)「日本酒」が「地理的表示(GI)」に指定されたことに伴い、指定商品として「日本酒」という記述はできなくなっています。

また、たとえば酒粕を販売する場合には第30類「加工した植物性の食品(他の類に属するものを除く。)及び調味料」、近年事例が増えている化粧品の場合には第3類「洗浄剤及び化粧品」と、適切な商品区分を指定することも必要になるでしょう。ただし、後述するように申請する区分数に応じて登録費用も増えるため、必要十分な商品区分の検討が求められます。

登録された商標は、日本の場合10年間保護されることになります。諸外国でも多くの場合、有効期間は10年間となっていますが、カナダ(15年間)のように例外もあります。

商標登録を行わない場合のリスクとは?

それでは、商標登録をしないまま商品の販売や輸出を行った場合、どのようなリスクがあるのでしょうか?大きく分けると、以下の2つがあります。

(1)自社の商標が、先に他社に登録・使用されてしまうリスク
これまで見たように、先に販売していた銘柄や商品名であっても、他者が先に商標の出願・登録を行った場合には、そちらが優先して保護されてしまうことがあります。つまり自社の商品が法律上は「ニセモノ」として扱われることになってしまい、商品名を変更する等の対応が必要になる可能性があります。

(2)他社の商標を侵害してしまい、訴訟等を受けるリスク
意図せず、他社の商標権を侵害してしまう可能性もあります。たとえば同じ商品名、あるいはよく似た商品名のお酒がすでに商標登録されていた場合、その名前で商品を販売してしまうと「商標権の侵害」とみなされ、損害賠償請求を受けたり、商品の回収等が必要になる可能性があります。

ある酒蔵では中国への輸出を検討していたところ、自社の銘柄が既に商標登録されてしまっていたことが分かったといいます。この蔵元に話を聞くと、「輸出先と相談のうえ、現時点では権利者からの抗議等があれば対応する方針で輸出しているが、今後ほかの輸出先との取引にあたっては銘柄名を変更することも検討している。商標取消の申立を行うなどの対応には労力も資金も必要になるため、体力のある企業でないと難しく、実質泣き寝入りになってしまう」と対応に苦慮している様子が分かりました。

日本・海外での商標登録状況の調べ方

前節で記載した(2)他社の商標を侵害してしまい、訴訟等を受けるリスクについては、商標の登録状況を国別に調べることで、ある程度軽減できます。本格的な調査にあたっては、「類似の商標」を探す難しさや、類似性をどのように判断するかなど、高度な知識が必要になるため専門家への依頼を検討した方が良いでしょう。一方、簡易な調査は自力でも行うことができるため、その調べ方をご紹介します。

日本の登録商標は、独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供する特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で検索できます。

上記リンク先の「簡易検索」の欄で「商標」を選択し、調べたい銘柄名・商品名等をフォームに入力して「検索」ボタンを押すことで、その名前でどのような商標が登録されているか調べることができます。より詳しい条件を指定したい場合には、こちらのリンクから詳細な検索が可能です。

海外の登録商標は、世界知的所有権機関(WIPO)が提供するデータベースを使うことで、複数の国や地域を横断して簡易な検索が可能です。

上記リンク先の「SEARCH BY」ののうち「Text」に検索したい商品名(必要に応じてアルファベット表記等を使用)を入力して「Search」ボタンを押すことで、WIPO加盟国の登録商標を調べることが可能です。

一方、弊社が試してみたところ、この方法では言語の違いのためか、中国や香港、台湾の商標を調べきれないことがあるようです。また、WIPOのウェブサイトにも「グローバルブランドデータベースには相当数の商標登録のデータが蓄積されておりますが、すべてのデータが確実に蓄積されていない場合もあります。したがって、あわせて各国におけるデータベースにおいても、その登録を確認することを推奨しております」とある通り、国ごとのデータベースで調査を行う方が確実です。

先ほど紹介したJ-Platpatを提供する工業所有権情報・研修館のウェブサイトでは、中国、香港、台湾等新興国での商標検索方法も紹介されています。

中国の商標検索方法
香港の商標検索方法
台湾の商標検索方法

こちらを参考に、各国の登録状況を調べてみるのが良いでしょう。また、アメリカの登録商標についてはUSPTO(米国特許商標庁)のウェブサイトから検索が可能です。検索方法を解説した記事なども多く公開されていますので、適宜参照しながら検索してみてください。

なお、酒造組合中央会でも「海外商標登録申請ウォッチング業務」を通じて、特にアジア圏の商標申請を監視しているそうです。海外での申請状況を確認したい場合、酒造組合中央会への問い合わせにより情報が得られるかもしれません。

商標を登録するには

商標の登録申請については、自社で行うことも可能です。しかし、商品を指定する際の記述方法や、商品区分の検討方法など必要とされる専門知識も多いため、専門家に依頼することが望ましいでしょう。

日本の場合には、「弁理士」という知的財産に関する専門国家資格があります。所在地や専門領域に応じて、適切な弁理士またはその所属事務所を探して相談・依頼してみましょう。また、海外への出願を行う場合には、日本の専門家を通じて、あるいは可能な場合直接、現地の専門家等を通じて調査・登録を行うことも必要になります。

今回の記事でも、登録方法については制度面など概要レベルの記述にとどめていますので、必要に応じて専門家に相談するようにしてください。

国内での商標登録方法概要とコスト

国内での商標登録方法は、特許庁のWebサイトにも分かりやすくまとめられていますが、ここでも概要を記載しておきます。

まず、所定の出願書(「商標登録願」)を特許庁に提出します。後述するように出願の段階でも費用が必要になります。出願費用は、専用の「特許印紙」を郵便局で購入して出願書に貼り付けることで納付します。

出願すると、特許庁の審査が行われます。審査の結果、登録可能と判断された場合には「審査合格通知」が届きます。注意点として、この時点では登録は完了しておらず、この通知から30日以内に登録料を支払う必要があります。登録料の支払い後に、特許庁での登録が完了し「商標登録証」を受領することができます。

なお、特許庁での審査の結果「登録不可」と判断された場合にも、出願内容の修正や、意見書の提出による反論を行うことで、判断が改められることがあります。実態としてはこのような対応が発生する場合も多いため、登録には1年以上など、長い時間がかかることをあらかじめ見越しておく必要があります。

出願・登録に必要な費用は以下の通りです。弁理士等の専門家に依頼する場合、下表の費用に加えて専門家への支払い報酬が必要になります。

区分料金備考
商標出願料3,400円+(8,600円×区分数)-
商標登録料28,200円×区分数10年有効。5年ごと分納の場合16,400円×区分数×2回
更新登録申請料38,800円×区分数10年有効。5年ごと分納の場合22,600円×区分数×2回

(特許庁Webサイトを元に作成)

海外での商標登録方法概要とコスト

海外での商標登録には、大きく分けて以下2つの方法があります。
(1)マドリッド協定議定書(通称マドプロ)に基づく国際登録の申請をする
(2)各国別の所轄官庁に申請する

このうち(1)にある「マドリッド協定議定書」とは、107カ国(2021年2月時点)で締結された、商標の国際登録制度です。特許庁が作成した同制度のガイドブックでも、制度内容や手続き方法が解説されています。

複数カ国向けに同時に申請を行う場合には、(1)の方法を使った方が費用が削減でき、手続きも簡素化されるというメリットがあります。 一方WIPO国際事務局宛の手数料納付が必要になるため、商標登録をしたい国のうち、マドリッド協定議定書締結国の数が少ない場合には(2)の各国別の申請を行った方が良いケースもあります。ちなみに主要な日本酒輸出先のうち、香港と台湾は同議定書の締結国には含まれていません。また、(1)の方法では各国同一の内容で申請する必要があるため、たとえば国によって申請する商品区分を変えたい場合なども(2)の方法をとる必要があります。

(1)の手続きを行う場合には、日本の特許庁に所定の様式を提出することで申請を行います。(2)の手続きでは、各国の代理人等を通じて、各国別の管轄当局に必要な書類等の提出を行います。

(1)の手続きで必要な費用は下表の通りです。(2020年2月時点で、1スイスフランは117円程度です。)弁理士等の専門家に依頼する場合、支払い報酬も必要になる点は国内の申請と同様です。

区分料金備考
(a)基本手数料653スイスフラン色彩付きでない場合の金額。色彩付きの場合903スイスフラン。
(b)付加手数料100スイスフラン×申請国数-
(c)追加手数料100スイスフラン申請対象区分数が3を超えた場合、一区分ごとに必要
(d)個別手数料国ごとに定める額申請対象となる国によっては不要

(特許庁「商標の国際登録制度活用ガイド」p.6を元に作成)

上記のうち(d)個別手数料についてはWIPOのWebサイトに記載があります。

また、(2)の方法で必要な費用は、国別に調査する必要があります。たとえばアメリカでは出願時に1商品区分あたり350ドル(※3)、香港では1商品区分目は2,000香港ドル、2商品区分目以降は1区分につき1,000香港ドル(2021年2月時点で、1香港ドルは13.5円程度)となっており、このほかに現地の専門家/代理人、あるいは現地専門家/代理人とのやりとりを行う日本の専門家への支払報酬が必要になります。

(※3)TEAS Standardでの申請の場合。TEAS Plusと呼ばれる簡易な申請の場合には250ドル。TEAS Plusでは、指定商品をマニュアルに従いIDで指定します。

「日本酒の世界化」に向けた対応の検討を

創設間もないSAKE Streetでも、商標登録の重要性を実感することになった今回のロゴ盗用事案。すでに輸出実績の多い酒蔵や代理店は、なおさら大きな脅威にさらされているのだろうと思わされました。

日本酒の輸出量や金額が年々増える状況には大きな夢もありますが、同時にリスクもあるもの。今のうちから、適切な知識を身につけたり、相談先を確保することから始めて、徐々に必要な対応をとっていくことが求められるでしょう。

そうは言っても、記事中でコメントを紹介した蔵元も「いち造り酒屋が広く海外の商標問題に対応するには、体力や専門知識等の面で限界がある」と語っていたとおり、万全な体制を築くことは難しいのも事実です。「日本酒の世界化」を後押しするべく、国や業界を挙げてさまざまな「攻め」の施策が取られていますが、商標の保護といった「守り」の施策も今後は必要になるのかもしれません。

次回の記事では、すでに輸出や海外商標への取り組みを進めている酒蔵を取材し、商標やブランド保護に関する取り組みの先進事例をご紹介します。

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