酒粕の再利用状況を探る - 廃棄率/再利用率の統計や取り組み事例など、最新情報レポート

2023.09

19

酒粕の再利用状況を探る - 廃棄率/再利用率の統計や取り組み事例など、最新情報レポート

瀬良 万葉  |  SAKE業界の新潮流

酒粕は、日本酒を製造する際の副産物。古くからさまざまな用途に利用されてきましたが、近年では廃棄率が増えているとも言われる食材です。

そんな酒粕の利用状況の実態はわかりづらく、ときには誤った情報も飛び交っています。そこで今回は、酒ストリート編集部が独自に酒粕の利用状況を調査し、記事にまとめてみました。

酒粕の生成過程と使いみち

まずは酒粕がどのように生まれるのか、そして一般的にはどのような用途で使われるのかを確認しておきましょう。

酒粕の生成過程

日本酒の製造プロセスをごく簡単に説明すると、以下のようになります。

(1)米と米麹、水などの原料を混ぜ合わせて発酵させる
(2)発酵したものを搾って、液体と固体を分離する

(2)で分離した液体の部分が日本酒、固体の部分が酒粕になります。

ちなみに「おりがらみ」や「にごり酒」と呼ばれる日本酒は、液体に固体が一部混ざった状態です。

酒粕の使いみち

酒粕は古くから多彩な用途で使われてきました。その代表例を挙げてみます。

まずは家庭料理の材料。酒粕の風味を楽しめる「粕汁」、酒粕の旨味を魚や肉などに移す「粕漬け」、酒粕で野菜を何度も漬け替えて仕上げる「奈良漬」など、酒粕を使った料理は古くから日本各地で愛されてきました。

酒粕を原料とする加工食品もあります。酒粕をお湯に溶いて加熱し、砂糖などの甘味料を加えた「甘酒」もそのひとつ(※甘酒には酒粕ではなく麹を使う製法もあります)。また最近では「酒粕アイスクリーム」などのお菓子も人気です。

酒粕は、飼料としても利用されています。酒粕にはタンパク質が多く含まれており栄養価が高いほか、輸入に頼りがちな飼料を国内で生産できる点や、環境配慮の観点からも注目されています。

さらに、酒粕を堆肥として活用する方法もあります。栄養豊かな酒粕は、土壌を豊かにしてくれるのだそうです。

酒粕の生成量

先ほど見たように日本酒造りに伴う副産物として生成される酒粕ですが、年間でどれぐらいの量ができるのでしょうか。国税庁が毎年公表する「清酒の製造状況等について」に統計が公開されており、これによると、1年間に生成される酒粕は約32,000トンです。
出典:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/shiori-gaikyo/seizojokyo/2021/pdf/001.pdf

この量は、年間で生産される日本酒の総量の10%前後にあたります。近年、この割合は微増傾向にあります。原因は不明ですが、酒粕が多く生成されやすい吟醸酒の生産割合も近年高くなっているため、そのことが影響している可能性はあります。

酒粕の利用状況

毎年約32,000トンの酒粕がつくられているとのことですが、そのうちどれだけ再利用されているのでしょうか。日本全体での酒粕利用率がわかる統計は、今回の調査では見当たりませんでした。ただ、傾向の推測に役立ちそうな資料はいくつか見つかります。

秋田県中小企業団体中央会がまとめた調査によると、酒粕の利用率は75% とのこと。そのほか、生産量トップ10府県の中小企業団体中央会や酒造組合にも問い合わせましたが、「統計を取っていない」または無回答と、残念ながら同様の調査は確認できませんでした。
出典:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC08D140Y1A600C2000000/

また日本酒造組合中央会が2011年に環境省へ提出した資料には、酒粕に加えて精米時に発生する糠(ぬか)などを含めた「食品廃棄物等」の再生利用率は、90%以上を維持しているとの記載があります。
出典:https://www.env.go.jp/content/900533431.pdf(p.4)

よく「ほとんどが廃棄されている」と言われる酒粕ですが、最新の情報については不明な点も多いものの、比較的高い水準で、なんらかの用途で活用されているといえそうです。

ただ最近、酒粕の利用率は減少傾向にあると言われています。その理由には、奈良漬をつくる文化が衰退するなど、家庭での利用が減っていることなどが挙げられます。しかし、酒粕の利用状況推移に関する正確な統計が見当たらず、この言説をデータで確かめることはできませんでした。もし調査情報をお持ちの方は、ぜひ編集部まで情報をお寄せください。

酒粕の廃棄方法とそのコスト

酒蔵で生成された酒粕を再利用せずに廃棄する場合は、どのように処理されるのでしょうか。

新潟で酒粕を使ったプロダクトを手掛ける「FARM8」の代表・樺沢敦さんによると、酒粕を「廃棄物」として処理業者に引き渡している酒蔵はあまりないのだそうです。漬物の材料や飼料・堆肥としての活用に回したり、蔵の近隣住民に配布したりと、何らかの形で引き取ってもらうのが一般的だということでした。

一般の事業者に堆肥用として利用してもらう場合は100kgあたり5,000円程度の値付けとなりますが、酒蔵側が物流コストを負担しなければなりません。値付けをしない業者もあり、漬物業者などにはほぼ無料で渡すこともあるのだそうです。つまり、酒蔵にとって大きなメリットのある形再利用できるケースは少ない状況だといえます。

とはいえ、蔵で酒粕を処理するのも大変です。醸造量の多い大きな酒蔵の場合、大量の酒粕を一度で処理できる設備を備えるなどの対策を取っている可能性もありますが、小規模な造り手の場合なかなかそうはいきません。

有名な銘柄の酒粕であれば小売販売によって売ることができるかもしれませんが、最も酒造りが忙しい時期に少量ずつ袋詰めする手間が発生するなど、悩みは尽きません。津南醸造の代表として酒造業にも携わる樺沢さんは、「小さな酒蔵ほど、酒粕の扱いに苦労しているのではないか」と言います。

酒粕の利用にまつわるこれらの課題を解決するため、FARM8では新潟県内の酒蔵から適正価格で酒粕を買い取り、オリジナルの酒粕プロダクトに活用する取り組みをおこなっています。こうした注目のプロジェクトをはじめ、そこから生まれたサステナブルな酒粕アイテムを次の項でご紹介します。

酒粕再利用の新しい取り組み

FARM8:日常に溶け込む親しみやすい酒粕プロダクト

先ほどご紹介したFARM8は、酒蔵で生成される酒粕を適正価格で買い取り、酒粕を主原料とした100%植物性の「Hacco Gelato(発酵ジェラート)」、酒粕をもう一度乳酸菌で発酵させた「JOGURT(醸グルト)」など、ユニークな商品に生まれ変わらせています。

米関連の加工に関してトップクラスの知見が集まる新潟で、研究機関の取り組みを参照してつくられるFARM8の商品は、意外にも「酒粕」を前面に押し出しすぎないことを意識して開発されているのだとか。多くの人が「知らないうちに酒粕を食べている」 ような状況を目指して、FARM8は今後も生活に取り入れやすいアイテムを展開予定とのことです。

Ethical Spirits:酒粕の魅力をクラフトジンとして表現

酒を搾った「最後(last)」に得られる酒粕に、終わらず「続く(last)」新たないのちを与える。Ethical Spiritsがそんな想いでつくる「LAST」は、酒粕から生まれたクラフトジンです。

原酒に使われているのは、鳥取県・千代むすび酒造の粕取焼酎(酒粕を発酵させてから蒸留したもの)。一般的なジンの数倍ものボタニカルを漬け込んで仕上げることで、酒粕由来の吟醸香や爽やかさとボタニカルの華やかな香りが共存する独自のフレーバーが生まれています。

稲とアガベ:酒粕を宝へ変える食品加工場を立ち上げ

SANABURI FACTORY」は、秋田県のクラフトサケ醸造所「稲とアガベ」が立ち上げた食品加工場。酒粕やその他廃棄の可能性がある食材を、新たな価値ある商品へ生まれ変わらせるための場所です。

商品第一弾は「発酵マヨ」シリーズ。お米の栽培から醸造まで一切添加物を使用せずにつくられる稲とアガベの酒粕を主原料に、植物性の食材のみを使用してマヨネーズのような味わいを実現しています。ほかにも「発酵カスタード」や「発酵ケチャップ」など多彩な商品を開発し、酒粕再利用の新たなジャンルを広げています。

まとめ

日本酒の副産物である酒粕。廃棄されることもある食材ですが、いくつかの調査結果から推測する限り、比較的高い水準で再利用されているとはいえそうです。ただ、再利用について統計を取っていない地域も多く、曖昧な情報がほとんどであることは課題だと言えるかもしれません。

近年は食文化の変化から家庭での酒粕利用が減少傾向にあるとも言われていますが、サステナビリティの観点から酒粕の新たな活用方法を見出す動きも活発になっています。次々と開発されるユニークな酒粕プロダクトを通じて、これまで知らなかった酒粕の魅力も発見できそうです。

日本の主食であるお米を原料にしてできる日本酒と酒粕。これからも無駄なく使い、お米という豊かな食材を余すことなく活用できるといいですね。

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