2020.03
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日本酒の搾り方と味の違いを知ろう! - 日本酒造りの仕上げについて徹底解説
日本酒は初めからスーパーや酒屋で見かけるような透明な状態でできるわけではありません。米、米麹、水をもとに酵母の力で発酵させた醪 (もろみ) を搾ることで酒と酒粕に分けて、初めて日本酒となります。
この酒と酒粕を分ける工程を上槽 (じょうそう) といい、これは発酵の完了した醪を酒袋に詰め、圧力をかけながら搾り、酒と酒粕に分離する作業のことを言います。上槽の言葉は、かつてはどこの蔵もお酒を搾る際に ”槽 (ふね) ” と呼ばれる器具(後述)を使ってお酒を搾っていたことに由来します。
一言で上槽とまとめてしまっていますが、その方法は伝統的なものから全国で数えるほどしか使われていない最新のもの、果ては特許まで取ってしまうほど革新的なものまで様々あります。お酒のラベルに記載されていることもある ”槽出” や ”槽搾り” 、”袋吊り”など、今まで「見たことはあるけど、あまり意識したことがない」と思われる部分をこの記事では掘り下げていきたいと思います。
さまざまな搾り方とその特徴
3つの ”槽を用いた搾り方”
まずは前述した ”槽(ふね)” を用いた搾り方、槽搾りを3種類ご紹介します。実は1960年代以降、後述する薮田式自動圧搾機の開発により大幅な工程の自動化が図られ、一時的に槽が使用されることは減りました。しかし現在は搾られたお酒の酒質を鑑みて使用を再開する蔵も出てきています。広義の意味で ”槽” はお酒を搾る際に用いられる船型の器具であり、搾り方により様々な材料、形状、大きさのものが用いられます。
佐瀬式
1つめは、槽搾りの中で今もっとも使用されている佐瀬式 です。用いる”槽” は 画像のようなものです。材質は、古くは欅や銀杏などの硬質の木材で作られており、時代を経てコンクリート製、ホーロー製と移り変わり、現在は鉄製で内側にステンレスの板を貼り付けたものが製造されています。
その中に、酒袋という太めの化学繊維でおられた細長い袋に醪を詰めたものを規則正しく積み重ねていき、最初は醪の自重で搾り、途中から上からゆっくり機械で圧力をかけて搾るものが佐瀬式槽搾り(ふなしぼり)と呼ばれています。 この酒袋に醪を詰める作業や酒袋を積み重ねる作業は蔵人が手作業で行うため、とても手間がかかります。その分 無理な圧力をかけずに搾れるため、口当たりの優しい、澄んだ味わいの上質なお酒が搾れます。
八重垣(やえがき)式
2つめは八重垣式です。用いる”槽”は上の画像のようなもので、佐瀬式のものと比べて、浅いものとなっています。この槽の上に、大布と呼ばれる槽と同じくらいの大きさの袋と矢板と呼ばれるアルミ板を交互に重ね、その後下の大布から順に醪をポンプで送り、佐瀬式と同じく最初は醪の自重で、途中から上から機械で圧力をかけて搾るものを八重垣式槽搾りと呼ばれています。
圧力の加え方としては佐瀬式に似ています。佐瀬式は槽の中で醪を搾りますが、八重垣式は槽の上、つまり外で搾るため空気に触れやすいことが大きな違いです。 昨今では、よりフレッシュなお酒を搾るためにと上槽設備の冷蔵化や空気に触れる時間をより短くということが意識される中、あえて空気に触れさせることにより、酸化を促すような作りになっています。これにより、まろやかでありつつ個性的なお酒が搾れます。
撥ね木式
3つめは撥ね木式です。前述の2つの槽搾りは機械の力も利用して搾っていましたが、こちらはその 圧力をかけるのも人力で行う ものです。
用いる”槽”は画像のようなもので佐瀬式と似ています。この槽の中に佐瀬式と同様に醪を詰めた酒袋を積み重ねていき、最後に蓋をします。その上に巨大な木 (撥ね木) を置き、てこの原理を用いて石の重みで圧力を加え搾っていくものが撥ね木搾り、あるいは天秤搾りと呼ばれています。機械ではなく人力で調整しながらゆっくり搾るお酒は、機械で搾ったものと比べとてもまろやかでふくよかなお酒となる 傾向があります。
薮田式自動圧搾機を用いた搾り方
次にご説明するのは、薮田式自動圧搾機 (通称:ヤブタ) を用いたヤブタ式と呼ばれる搾り方です。機械の全貌は画像のようになっており、この画像の白い部分に醪を注入しお酒を搾ります。この部分は、醪を入れられるように板と濾過布をあわせたものが数十個並べられています。そこに横から圧力をかけて搾っていくのがヤブタ式の搾り方です。
槽搾りに比べてのメリットは多く、
- 搾り時間が半分以上に短縮されること。それにより空気に触れる時間が減り品質向上が見込めること
- 醪の注入から搾りまでを自動化できるため蔵人の負担が減少できること
- 槽搾りより強い圧力で搾れるため、より多くの酒が分離できること
などが挙げられます。
以前は合理的に搾れる分、圧力のかけ過ぎなどで雑味の混じったお酒になってしまうこともあったようです。しかし、今ではそのようなこともなく、もともとのメリットである短時間で酒を搾れることに加え、ヤブタをそのまま冷蔵庫にいれて醪を低温状態で搾るなどの工夫もあり、発酵由来の炭酸ガスが残った フレッシュで綺麗な味わいのお酒を搾ることができるようになっています。
袋吊り (雫搾り)
ここまでは機械を用いた搾り方をご紹介してきましたが、次は人力で手間を惜しまず最高のお酒を搾るために袋吊り (雫搾り) という搾り方をご説明します。
これは、小さなタンクの上に木の棒を渡し、そこに醪を詰めた袋をめいっぱい掛け隙間をなくすことで空気に触れる面積を最小にし、そのまま圧を加えず重力で落ちてくるお酒だけを取るものです。
一度に搾れる醪の量も少なく、圧を加えず落ちてくるものだけを取るため時間もかかり、最後まで搾りきれないなど効率は悪いですが、その分酸化も最小に抑えられる最も理想的な方法と言われます。 もちろん、搾りきれなかった分は前述の槽搾りなどを併用し搾りきっています。主に鑑評会出品用のお酒に使われる手法 で広く一般にとはいきませんが、その酒蔵さんの技術の粋を結集したすばらしいお酒です。
遠心分離
ここまでは広く使われている搾り方を見てきました。 ここからは今現在、最新の機器や技術を用いたものをご説明したいと思います。
1つめは遠心分離機を用いた搾り方です。こちらは全国でも十数社しか用いていない最新のものです。機械の中に醪を入れ、中身を毎分約2000回転させることにより酒と酒粕に分離します。
先にご説明した槽、ヤブタ、袋吊りと比べて、搾る際に布を使用していないことから布由来の臭いが付かない、密閉状態で分離できるため香気成分がほぼすべて残るなどのメリットがあります。 しかしながら、遠心分離機は1台数千万と導入のハードルが高く、一度に搾れる量も少なく、歴史が浅いのでノウハウがなくメンテナンスが大変など様々な課題があります。そのぶん誇張なしに シルクのような舌触りの優美なお酒 となっています。
氷結取り®
最後にご説明する搾り方は風の森を醸す奈良県・油長酒造が特許を取得している氷結取り® (特許第6005784) です。先にご説明した搾り方はすべて布や機械を用いていましたが、それらを一切用いず発酵タンク内で醪を搾るものです。
タンク内に酒と酒粕を分離させるフィルターを装着し、タンク内を酵母の出す二酸化炭素で無酸素状態で加圧、かつ醪を氷結直前まで冷却することにより固形分を沈殿させ、上澄みをフィルターを通し取ることにより酒に対する一切のストレスを廃したまったく新しい搾り方です。これにより 香気成分の残った、透明感のある上質なお酒となる ようです。
搾り箇所による違い
ここで今一度伝統ある搾り方に立ち返ってみましょう。最新の搾り方を知ると、全部それで搾って上質なお酒を出せば良いのでは?と思われるかもしれませんが、槽搾りや薮田式といった伝統のある搾り方には別の楽しみ方があるのです。それが ”搾り箇所による違い” です。
説明をわかりやすくするため、突然ですが醪を「水をたっぷり含んだタオル」に例えてみます。ここでいう水 = 酒、タオル = 酒粕 と考えてください。水を含んだタオルは最初はなにもせずとも水が出てきます、出てこなくなったら絞ってあげると再度水が出てきます。最後に固く絞ると少しですが水が出てきます。
お酒の搾り方も同様で、最初は何もせずともお酒が出てきて、圧を加えてあげると再度出てきて、最後強く圧を加えると更に出てきます。多くのお酒はこれら3つの段階に取れたお酒を分けず混ぜて均一にして造られていますが、実はそれぞれの段階によって味わいが異なってくる のです。
このようにして段階ごとに分けて取ったお酒を、取れる順番に ”あらばしり”、”中取り (中垂れ、中汲み)”、”責め” と呼びます。 これらの言葉もお酒のラベルなどに記載されることが増えてきて目にしたことがあるかもしれません。それらの特徴についても学んでみましょう。
あらばしり
あらばしり (荒走り) とは、上槽過程で機械による圧力をかけずに醪自身の自重により自然と出てくる部分のことです。最初に出てくる部分のため、最もフレッシュで香り高いですが、そのぶん刺激の強いインパクトのあるお酒 となっています。
中取り
中取り (中垂れ、中汲み) とは、適度に圧力を掛けて出てくる部分で、1度の上槽で取れるお酒の過半数を締めています。あらばしりの過程で酒袋の内側に固形物が堆積された層ができており、その層と酒袋を通って出てくる部分です。3つの段階の中で 透明感もあり香味のバランスの取れた最も良い部分 となっています。
責め
責め とは、中取りを取ったあとに強い圧力を加えて搾り切って出てくる部分のことです。あらばしりとは全く違った 複雑味のある味わい深いお酒 となっています。
まとめ
日本酒製造工程の仕上げである ’’上槽’’ にも様々な方法があって、それぞれに個性があること、出来上がったお酒も取れる段階によって特徴があることをご紹介しました。
なにごとも締めが大事なように日本酒造りも仕上げが大事です。造ったお酒に対して求める酒質や味わいを蔵元や杜氏が考えて適切な搾り方を使ったり、少しでも良いお酒にするために新しい方法の開発や様々な工夫がされています。搾り方に注目することで、味わったお酒が造られた酒蔵の風景や蔵元の思いが思い浮かびやすくなり、新しい日本酒の楽しみ方ができるようになるではないでしょうか。
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