最先端テクノロジーの街でSAKEの未来を造る - サンフランシスコ(アメリカ)・Sequoia Sake Company (1)

2019.11

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最先端テクノロジーの街でSAKEの未来を造る - サンフランシスコ(アメリカ)・Sequoia Sake Company (1)

木村 咲貴  |  酒蔵情報

セールスフォース・ドットコムやツイッター、ウーバーなどのテック系企業が興隆するアメリカ・サンフランシスコ。そんな世界最先端の街で愛される”ローカルSAKE(※参考)”を醸すのが、マイクロ・ブルワリー「Sequoia Sake Company(セコイヤ・サケ・カンパニー/以下Sequoia Sake)」です。

Sequoia Sakeを営むのは、アメリカ人のJake Myrick(ジェイク・マイリック)さんと、日本人の亀井紀子さんご夫婦。 二人がマイクロ・ブルワリーのビジネスをスタートしたのは、2015年のこと。 仕事の関係で日本に住んでいたころに、日本酒にハマったというお二人。特にお気に入りだったのが、火入れ処理を行わない「生酒」でした。

約10年の日本生活を終えアメリカへ戻ってきた二人は、流通の事情から、アメリカでは生酒がほとんど手に入らないことに気がつきます。 「手に入らないなら、自分たちで作ってしまえばいいんじゃないか」──そんなアイデアが、事業を始めるきっかけとなりました。

もともとIT業界出身の二人にとって、SAKEを造るのはまったく初めての体験。ビールを中心とした小規模醸造所を優遇するアメリカの環境も手伝って、地元の人々に親しまれるローカルSAKEとしてその地位を築いています。

(※参考)国税庁の定める「地理的表示」により、『日本酒』と名乗ることができるのは「国内産のお米だけを使い、日本国内で製造された清酒だけ」と規定されているため、ここでは海外で造られたお酒を「SAKE」と表記しています。

SAKEの多様性を伝えるラインアップ

Sequoia Sakeの主力商品は、生酒「Sequoia(セコイヤ)」シリーズと火入れ酒「Coastal(コスタル)」の2ブランドです。

生酒の「Sequoia」は、口に含んだ途端お米の旨味が弾けるフレッシュでジューシーなシリーズ。ややドライで青リンゴ様のさわやかな風味が特徴の看板商品「Nama」、ほんのりスパイシーなフルボディタイプの原酒「Genshu」、ソフトな口あたりで飲み飽きしない濁り酒「Nigori」の3種類をそろえています。

「Coastal」はより落ち着いた味わいで、こちらも「Ginjo」「Genshu」「Nigori」の3種類。流通のための保存性を意識して開発された商品で、ロサンゼルスほかカリフォルニア州内の遠方地域にも届けられています。

「SAKEには『山廃』や『本醸造』など造りによってさまざまな種類がありますが、なるべく味の特徴がわかりやすいものをと考え、この3種類ずつにしました」と紀子さん。 製造方法の違いにより多種多様な味わいが生まれることは、日本の日本酒ファンのあいだでは常識ともいえるでしょう。しかし、アメリカのビギナーにそうした細かい違いを伝えるのはまだハードルが高いと、Sequoia Sakeの二人は考えています。

「まずはわかりやすいものを飲み比べて、『私はこれが好き』と自分のパレットを作っていってもらう。そういうエデュケーション(教育)が、自分たちの提供できるいちばんのサービスだと感じています」

IT出身ならではのビジネス観

地元ナパ・バレーのワイン樽やカリフォルニア産のウイスキー樽で熟成させた「Barrel-Aged(バレル・エイジド)」シリーズなど、SAKEを飲んだことがない地元の人々にアプローチするユニークな商品も生み出すほか、現地の飲食店とのコラボレーションも積極的に行っているSequoia Sake。 そうしたクリエイティブな取り組みに次々と挑戦するビジネス観は、IT出身というバックグラウンドのなせる技でもあります。

紀子さんはここで、現在のIT業界の定番の手法である「アジャイル手法」について説明してくれました。 従来のITビジネスは、はじめに完璧な仕様書を作成し、それに基づいた製品を製作。最後にテストで仕様書どおりの品質になっているかを確認する「ウォーターフォール型」が主流でした。 一方、昨今は、お客さんにとって価値のある製品をできるだけ早くリリースし、ユーザーからのフィードバックを得ながら品質を高めていく「アジャイル型」 が広く普及しています。紀子さん曰く、Sequoia Sakeは、この「アジャイル型」の感覚を取り入れているというのです。

「『この方法でずっとやっていけば大丈夫』というようなビジネスはない」と、紀子さんは続けます。「昔の方法だけにこだわってしまうと、3年後もビジネスを続けるというのは難しいのが現代」「常に新しいアプローチを考えて、『これはおもしろいかもしれない』と思ったらやってみる」という考えのもと、日々新たなチャレンジを試みています。

アメリカのSAKEの未来を見据えたエコシステムづくり

そうした反射神経を見せる一方で、忍耐強くエコシステムと取り組む一面も。2019年6月、Sequoia Sakeは原料米「Caloro(カロロ)」の契約栽培をスタートしました。カロロとは、山田錦のルーツである酒米「渡舟」をアメリカで育種した当初のお米で、現在アメリカでの酒造りに最も使われている「Calrose(カルローズ)」よりもより酒米に近い遺伝子を持っています。

生産者によって品質の異なるお米が、SAKEの味わいを大きく左右することに気づいたジェイクさんと紀子さん夫妻は、カリフォルニア大学デイビス校の協力のもと、カロロを研究栽培。州や連邦との手続きに4年、実験的な栽培に3年をかけて、ようやく商用栽培の認可へとこぎつけました。

「お米の質によってSAKEの質が大きく変わってしまうのは、厳しい現実でもあります」と紀子さん。「IT業界から来ているせいで、農業は余計スローペースに感じてしまいますが、時間がかかるのは仕方のないこと。辛抱強く、エコシステムから作ってゆく必要があります。そうしないと、本当においしいお酒はできませんから」

まとめ

新しいアイデアを次々と取り入れる柔軟性と、エコシステムを基盤から構築する行動力。日本から世界へと飛び出し、さまざまな地域でSAKEの醸造が進む現代。世界を動かす最先端ビジネスの聖地・サンフランシスコの地酒蔵は、その未来を真摯に見つめ、躍進し続けています。

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