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甘さを削れば、個性も消える? 矛盾するはずの「個性溢れる辛口」を実現した高級日本酒とは

甘さを削れば、個性も消える? 矛盾するはずの「個性溢れる辛口」を実現した高級日本酒とは

ラグジュアリー日本酒ブランド・SAKE HUNDREDが誕生して8年。グッチ ジャルディーノとのコラボレーション商品発売や、世界的コンテストにおける数々の受賞でますます注目を集める2026年、新商品「来火(らいか)」がそのラインナップに加わりました。

テーマは「辛口」。日本酒愛好家のあいだでもしばしば物議を醸すこのテーマに、なぜいまSAKE HUNDREDが取り組むことになったのでしょうか。

世界の高級酒市場で闘うSAKE HUNDREDが考える辛口とはどのような味わいなのか。ブランドオーナーの生駒龍史(いこま・りゅうじ)さんに商品開発の経緯を聞きながら、辛口の高級日本酒が産業全体にもたらす意義に迫ります。

なぜ、いま「辛口」なのか

来火商品イメージ

日本酒の世界で、「辛口」ほど議論を呼んできた言葉はないかもしれません。居酒屋で「辛口ください」と注文するような場面では、お客さんと店員の「辛口」の認識に齟齬が生まれやすく、「辛口とは何か」という論争がたびたび発生してきました。

食い違いが起きる理由は、「辛口」という言葉の成り立ちにあります。日本酒の「辛口」は、唐辛子のような辛味を指しているわけではありません。日本酒の辛さを示す指標は日本酒度や「甘辛度」などいくつかありますが、それらはいずれも糖による甘味の存在を前提としており、甘さが控えめである場合に「辛口」と表現されるからです。

「これまで、高級酒の文脈で辛口が語られることはほとんどなかったと思うんです。なぜなら、高級酒の多くは米を磨いてフルーティーな香りを引き出す設計になっているから。心地よい果実感を完成させるためにも、あえて甘味を残したリッチな味わいに仕上げることが多いんです」

米を多く削ると、手間がかかるうえに必要な玄米の量が増え、製造上のコストを価格に反映させやすくなります。さらに、高精白によって生まれる華やかな香りは、お酒の特別感を演出する要素として、高級酒のイメージを支えてきました。

SAKE HUNDREDも、まさにその例に漏れない商品を生み出してきました。看板商品である「百光(びゃっこう)」は、原料米を精米歩合18%まで磨いた純米大吟醸で、リンゴや洋梨を思わせる香りに、透明感のあるみずみずしい甘味が特徴。この酒質を軸として、スパークリングや樽貯蔵などのラインナップを展開してきました。

ところが、海外市場でブランドを展開するうちに、ひとつの壁が見えてきます。

「3年ほど前から、『おいしいけれど、甘い』と言われるのがずっと気になっていたんです。はじめは『それがSAKE HUNDREDの特徴だ』と思っていたのですが、海外展開が増え、世界の飲食シーンの解像度が上がっていく中で、どうしても既存のラインナップだけでは超えられない市場があることを理解しました。優劣ではなく、日本酒らしい甘味を特徴とした商品が評価される市場と、そうでない市場があるということです」

生駒さん画像

ワインやウイスキーなどの世界的な酒類には、「ドライ=辛口」という大きなカテゴリーがあります。そして同時に、それらの市場では、高価格帯の商品ほど「複雑性」が評価される傾向にあります。

「辛口の日本酒とは、いわば“引き算の酒”です。甘味や旨味などの味わいの要素を抑えることで、相対的にアルコール感が前に出て、ドライに感じられる。要素を減らしていくことで成立してきた酒質だからこそ、そのお酒ならではの個性を表現することとは相性が悪いんです」

甘味や旨味を差し引いたシンプルな味わいは、「飲みやすさ」につながります。だからこそ辛口の日本酒は、日常的に飲まれる手ごろな価格帯で、幅広い層のニーズを埋める役割を果たしてきました。

世界市場には、辛口のニーズがある。一方で高級酒には、「なぜこのお酒を選ぶのか」という問いへの答えとして、圧倒的な個性が求められる。

「お金を出して買う価値のある辛口」、そして「SAKE HUNDREDにしかできない辛口」とは何か?本来、両立しえない「溢れる個性」と「辛口」という要素は、どうすれば両立させられるのか──そうした課題への試行錯誤の結果として生まれたのが、「来火」でした。

矛盾する要素を両立させた、「味の時間差」という仕掛け

来火商品イメージ 2

飲んだ瞬間、密度の高い甘旨味とハーブを思わせる引き締まった味わいが舌を撫で、そのまま喉の奥へと抜けてゆく。余韻にほのかなスパイスのニュアンスと、ほのかに燃えるような感覚──その鮮烈な印象は、まさに「来火」という名前を思い起こさせます。

文字どおり、「溢れる個性」と「辛口」を兼ね備えた味わい。この両立を実現するためにSAKE HUNDREDがたどり着いたのは、「味の時間差をつける」という設計でした。

「飲んだ瞬間は、甘やかさや酸味、旨味を感じる。けれど、感じたと思った途端に、すっと美しく消えていく。味の複雑性とドライさを時間軸で共存させれば、理想の味わいができると考えました。

イメージが決まってからは、この概念を実際の酒質設計に落とし込んでくれるパートナーの酒蔵を見つける必要がありました」

「来火」の製造を担ったのは、新潟県佐渡市の天領盃酒造。2018年、廃業寸前だった蔵を当時24歳だった加登仙一(かとう・せんいち)さんが引き継ぎ立て直した酒蔵で、承継後に立ち上げたブランド「雅楽代(うたしろ)」では「“新潟淡麗”を次の時代に合わせてアップデートする」というテーマを掲げています。

加登さん画像

天領盃酒造を選んだ理由は、生駒さんと商品開発責任者の河瀬陽亮(かわせ・ようすけ)さんがブラインドテイスティングでそろって太鼓判を押した酒質の高さ。精米歩合を売りにせず、高価格帯の商品も少なかった天領盃酒造ですが、だからこそ、これまでの高級日本酒とは違う味わいになるという期待もありました。

SAKE HUNDREDが目指す酒質について聞いた加登さんは、原料米に山田錦と新潟県の食用米「こしいぶき」を使うことを提案します。

「辛口といえば五百万石のイメージが強いですが、加登さんが『酵母にストレスを与えずしっかり辛口にする発酵のためには、五百万石よりこしいぶきの栄養バランスがいい』と教えてくれたんです。天領盃がこれまで培ってきた知見があったからこそ、麹米に山田錦、掛米にこしいぶきというベストな選択をすることができました」

精米歩合は、磨きすぎず、残しすぎないバランスを突き詰めた結果、28%に決定。そして、時間軸による味の変化を可能にするのが、佐渡最高峰の金北山の伏流水です。

「金北山の伏流水は硬度が80〜85で、カルシウム硬度75、マグネシウム硬度5と、カルシウムの比率が極端に多い。これは全国的にも珍しい比率ですが、カルシウムは旨味のふくらみにつながるので、今回の『ふくらんだ後に切れていく』という味を実現するのにぴったりでした」

完成したお酒を初めて口にしたとき、「イメージ通りすぎて、涙が出た」と振り返る生駒さん。SAKE HUNDRED初めての辛口酒は、新潟と佐渡という地で新時代の辛口に向き合ってきた天領盃酒造の存在あってこそ完成したのです。

理想の味から逆算する商品設計力

来火商品イメージ 3

SAKE HUNDREDの象徴ともいえる「百光」と“双璧を成す”商品として生まれた「来火」。同ブランドを象徴してきた黒いボトルとコントラストを成す透明瓶は、赤ワインと白ワインの対比を思わせます。

「これまでの商品はすべて『百光』と同じ円の中にありましたが、『来火』は別の円の中にいる。明確に酒質が違うため、横に並ぶ権利があるし、『百光』と対をなす商品として成長してほしいと思っています。

弊社のラインナップの中でも、『百光』は圧倒的なシェアがありますが、僕たちは『百光』だけを売るためにブランドを立ち上げたわけではなく、根本に、日本酒の多様性をお客様に知っていただきたいという熱い想いがあります。今回、辛口の商品をつくることは、SAKE HUNDREDが日本酒の広いポートフォリオをとらえて商品開発をしている、というメッセージにもなったはずです」

来火商品イメージ 4

味わいへの評価は極めて高く、70店もの飲食店がすぐさま導入を決定。先行販売も早々に締め切られ、個人向けの販売分はすでに完売し、次のロットの製造計画を進めているといいます。

この反応の良さは、まさに「辛口の高級日本酒」への潜在的なニーズを浮き彫りにしています。SAKE HUNDREDが創業当初から一貫してきた、“まず理想の味わいを言語化し、それを実現するための最適なパートナー酒蔵とレシピを設計する”というアプローチだからこそ、高級感あふれる辛口という酒質が実現したのでしょう。

「ブドウの品質ありきで味わいが決まるワインに対し、日本酒のいいところは、人が望んだ味わいをつくりだせるということです。自然がすべてを決めてしまう神の酒ではなく、意思の酒、人の酒であることが、ワインと日本酒の最大の違いだと考えています。

優れた酒蔵がおいしい酒を造れるのはあたりまえ。OEM(委託醸造)で壁になるのは、『その蔵の酒を買えばいいじゃないか』という指摘を超えづらいということです。対して、高い解像度で高級酒の味わいをイメージができるのがSAKE HUNDREDの強み。『来火』は、酒質の設計者としてのSAKE HUNDREDと、それを実現する天領盃チームの技術力の高さがあってこそ完成した商品だと自信を持っています」

「新たな辛口が、日本酒の未来に火を灯す」。その名前に込められた願いのとおり、日本酒業界に新たな可能性を示した「来火」。気になる世界市場での展開はこれからですが、日本を代表するラグジュアリーブランドが提案する新たな辛口は、世界でどのように受け止められるのでしょうか。その結果は、辛口の高級日本酒がグローバル市場で持つ可能性を測る試金石となることでしょう。

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