低アルコールで甘酸っぱい。モダンな日本酒を生む製法「酒母しぼり」とは?

2026.10

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低アルコールで甘酸っぱい。モダンな日本酒を生む製法「酒母しぼり」とは?

熊﨑 百子  |  日本酒を学ぶ

近年、少しずつ蔵元での採用が増えている「酒母しぼり」というお酒をご存知ですか?「低アルコール」で「甘酸っぱい」味わいが楽しめる、このお酒。名前は聞いたことがあっても、実際にどのような日本酒なのか、詳しく知らない方も少なくないのではないでしょうか。

この記事では、酒母しぼりならではの味わいの特徴や独自の製法、そしてこのお酒が持つメリットと課題について、詳しく解説していきます。

酒母しぼりとは

製法と特徴

日本酒の製造工程の図

酒母しぼりとは、“醪(もろみ)をつくらず、酒母を搾ってできたお酒”のことを指します。

酒母とは、蒸米、麹、酵母、水、乳酸からつくる日本酒の土台となる液体で、酒母をつくる目的は、アルコールを生成するための酵母を大量に培養することです。また、酒母をつくる際には、乳酸の力を借りて液体を酸性に保ち、発酵中に雑菌が増殖するのを防ぎます。

酒母についてより詳しい記事はこちら

醪とは、酒母に蒸米や麹、水を加えてつくるもので、通常の日本酒は、これを発酵させ、搾ることで出来上がります。材料を3回に分けて加える「三段仕込み」で仕込むのが一般的です。この方法では、材料を分けて加えることで、酒母に多く含まれている酵母、酸、アルコールが一気に薄まることがなく、雑菌汚染のリスクを抑えることができます。

また、アルコールを得るには、酵母が糖を資化する必要がありますが、この糖は、麹菌が出す酵素の働きにより、蒸米のデンプンがデキストリンに、デキストリンがブドウ糖に分解されることで徐々に増えていきます。それに合わせて酵母も増殖し、アルコール発酵が進みます。このとき、材料を分けて加えた方が、酵母が分解しきっていない糖や、まだ糖に分解されていないデキストリンといったアルコール発酵の原料を醪中に増やすことができます。これらの原料が分解され、酵母が活発に消費することで、一度に材料を入れるよりも、より高いアルコール度数を目指すことができ、醪の末期のアルコール度数は16〜18度ほどになります。

日本酒の発酵についてより詳しい記事はこちら

対して、酵母の培養を目的として管理をしている酒母では、アルコール発酵をあまり進めず、酒母末期のアルコール度数は10〜12度ほどまでしか上げません。そのため、酒母しぼりのお酒は、アルコール度数が低く、糖の甘さが残りやすい傾向があります。実際に、日本酒の甘さや辛さの目安として使われる日本酒度という数値をみると、一般的な日本酒が-1.4〜+1.4であるのに対し、酒母しぼりのお酒は-30を下回る場合が多く、大きく甘口を示す数値となっています。

また、酒母には、仕込み時に添加した乳酸に加え、酵母が生成する乳酸、リンゴ酸、コハク酸、生酛系では乳酸菌が生成する乳酸などが含まれています。これにより、酒母しぼりは、通常の日本酒よりも酸の濃度が高くなります。一般的な日本酒の酸度は1.3〜1.8程度ですが、酒母しぼりの場合は、3を大きく越えることも珍しくありません。

このような製法上の理由から、酒母しぼりのお酒は「甘酸っぱい味わい」で「低アルコール」であるのが特徴となります。

製法の工夫

酒母のイメージ

「酒母を搾るだけ」と聞くと、通常の酒造りよりも手軽に感じられる酒母しぼりですが、実際にはさらに手間をかけて造っている蔵もあります。

酒母が持つ強い酸味に対し、糖が少なくバランスが悪いため、「四段」と呼ばれる工程を追加でおこなうことがあります。四段とは、本来、醪の工程においておこなわれる「三段仕込みに追加する4回目の仕込み」のことです。酵素剤を利用して蒸米を55℃くらいで糖化し、冷まして添加する方法で、酒母にこの工程を加えることで、甘味や味の幅を補うことができます。

また、温度管理もさまざまです。通常の製法でつくった酒母を搾って酸味が強すぎる場合は、通常20℃前後の仕込みの温度を15℃程度まで下げ、酵母があまり増えないように調整することで、酸味が出すぎないようにしている蔵もあります。

もちろん、実際に日本酒造りに使用する酒母をそのまま搾っている蔵もありますが、「酵母を大量に培養する」という本来の酒母づくりの目的から離れた製法を用いた製品は、「酒母を省略した一段仕込み(+α)の醪」を搾ったお酒とも考えられるかもしれません。

酒母しぼりのメリットと課題

お酒のイメージ

酒母しぼりの特徴である「甘酸っぱさ」と「低アルコール」という要素は、現在の日本酒のトレンドと合致しています。また、製造者の視点からは、製造期間が短くなるというメリットもあります。

一方で、課題となっている点もいくつかあります。

ひとつは、酒粕の割合が非常に高くなってしまい、お酒がわずかしか取れないことです。酒母の段階では、酵母の増殖が優位になっており、蒸米も溶けてはいるものの、一般的な日本酒よりも溶け残りは多く、コストパフォーマンスの面で極めて贅沢な造りとなってしまいます。

また、一気にたくさん造ろうとして大きな仕込みをしてしまうと、酵母の成長期に入ってからアルコール発酵が始まるまでの時間が長くなります。すると、雑菌の増殖を防ぐ酸の濃度が低くなり、雑菌汚染のリスクが高くなってしまうという難点もあります。

さらに、酒母しぼりの製法では、オフフレーバーの一種で、ヨーグルトやバターのような乳製品系のにおいがする「ジアセチル」も出やすくなります。ジアセチルは、酵母の増殖が遅れたり、搾るまでの期間が短い場合に発生することがあります。これは、搾った後のお酒に、本来であれば酵母がアミノ酸生合成の材料にするαアセト乳酸という成分の残量が高くなることが原因です。

オフフレーバーについてより詳しい記事はこちら

その他にも、商品化にあたり、黄麹による着色で色が濃くなってしまうことや、吟醸香が比較的出にくいことも課題となっています。

酒母しぼりの日本酒にはどんなものがある?

酒母搾り純米原酒 玉旭 ECHOES(玉旭酒造・富山県)
出典:玉旭酒造有限会社

富山県有数の老舗酒造場として、富山県産の酒造りにこだわる玉旭酒造。県花であるチューリップの花から採取された酵母を使用した「酒母搾り純米原酒 玉旭 ECHOES」は、甘味・旨味・酸味が絶妙なバランス感で響きあう味わい。デザートとのペアリングもおすすめです。

shubonne シュボンヌ
出典:猪又酒造株式会社

自然豊かな新潟県糸魚川市に蔵を構える猪又酒造の酒母しぼり「shubonne シュボンヌ」のテーマは、「かわいくて美味しいお酒」。やさしい甘さと乳酸菌由来の酸っぱさ、低アルコールで軽快な飲み口が特徴です。このお酒の売上金の一部は、動物保護の活動に寄付されています。

酒母搾り酒 末摘花
出典:株式会社はつもみぢ

はつもみぢ(山口県)のお酒は、酒米から水に至るまでのすべてが厳選された山口県産を使用して造られています。「酒母搾り酒 末摘花(すえつむはな)」は、甘味と酸味の絶妙なバランスが特徴で、わずかな発泡感もあります。300mlの低容量でも販売されており、試しやすいのもうれしいポイントです。

たからやま prototype
出典:たからやま醸造株式会社

たからやま醸造(新潟県)が造る酒母しぼりは、杜氏が利き酒をした際に「酒母のろ液が一番美味い!」と感じて製品化したという、遊び心から生まれた一本。ベリー系の果実を思わせるような甘酸っぱさがありながら、口当たりがまろやか。軽い酸味と優しい印象が心地よく広がります。

まとめ

酒母しぼりは、通常であれば酵母を培養するための工程である「酒母」を、そのまま搾ってお酒にするという発想から生まれた製法です。醪をつくらないからこそ生まれる「甘酸っぱさ」と「低アルコール」という個性は、現在の日本酒のトレンドとも合致しており、今後もさらに広がりを見せる可能性があります。

一方で、歩留まりの悪さや雑菌汚染のリスク、オフフレーバーの発生など、製造上の難しさも多く、決して「手軽につくれるお酒」ではありません。むしろ、蔵元それぞれが工夫を凝らすことで、理想の酒質に近づけているのが実情です。

モダンな味わいの酒母しぼりですが、こうした背景を知ったうえで飲むと、飲みやすさだけではなく、その裏にある技術と試行錯誤の跡を感じられるかもしれません。

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