「美味しい日本酒を目指すパートナー」。新しい酒蔵と新しい醸造機器メーカーが築く関係性とは

2022.09

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「美味しい日本酒を目指すパートナー」。新しい酒蔵と新しい醸造機器メーカーが築く関係性とは

ふじたちえこ  |  酒蔵情報

「あの人が、私をここまで連れてきた張本人なんです!(笑)」

長州酒造・藤岡美樹杜氏が笑いながら指を示す先には、作業着姿で蔵内を動き回る男性が一人。にこやかに近づいてきたその人は菊田壮泰さん。醸造機械の設計、製作(ほかにも、いろいろ!)を手がける有限会社キクプランドゥー(広島県)の社長です。

そうか、この人が!と筆者の頭の中でつながったのは、長州酒造立ち上げの際、藤岡さんを長州産業の岡本晋社長に紹介したのは、広島の機械メーカーの方、と読んだりも聞いたりもしていたからです。
菊田さんは、醸造機器の納品や営業活動のため各地の酒蔵に足しげく通う「動きまわる社長」です。藤岡さんとの出会いは、2015年。藤岡さんが別の酒蔵で蔵人として働いていた頃でした。

蔵の現場の声を機械作りにフィードバックしていく菊田さんは、さまざまなやりとりの中で藤岡さんの真摯な仕事ぶりに触れていきます。より良いお酒造りのために、要望をはっきりと口にする藤岡さんに菊田さんは触発され、その声を機械作りに取り入れた例も多々あるそうです。菊田さんが製作した半自動瓶燗機「ヒートリード」もそのひとつでした。

おりしもその日は、瓶燗作業の日。「ヒートリード」がフル稼働する横で、藤岡さんの目指す酒質と醸造機器との関わりをお聞きすることになりました。

火入れへのこだわりは「最後まで美味しく飲んでもらうため」

「天美」がデビューした2020年秋は、コロナ禍による飲食業界および酒類流通の停滞期間の真っ只中。不利といえば、これほど不利なことはないという時期でした。

「そう、立ち上げた時からコロナ禍でしたから、飲食店さんで1杯ずつ飲んでいただく、というよりは、最初からお客さまにボトルを1本買っていただかないといけない、という状況でした。

ならば、その1本を持って帰っていただいたときに、どうしたら最後まで美味しく飲んでいただけるだろうかということを考えました。フレッシュな状態から飲みきるまでの味の変化を楽しんでいただくには、火入れをきちっとやらないといけないなと」

生まれたてのフレッシュな生酒は、その美味しさがダイレクトに伝わります。けれども、火入れを行わない分、不安定要素も多くて変化が速い。「天美」は、日本酒のビギナーも含め、誰が飲んでも「フレッシュで美味しい」と感じて貰うことを目指した酒です。そのため、矛盾しているようですが「生酒よりも、さらにフレッシュな状態を保てる酒である必要がある」と藤岡さんは考えていました。

「生酒は、生のまま膨らんでいく旨味が出るのもひとつの魅力です。でも変化も速い。ですから、うちの蔵では気温が低い時期にしか出しません。もしも味の崩れたものがお客さまの口に入ってしまったら、酒販店さんや飲食店さんや、皆さんの努力を無にしてしまうことになるので、それは絶対にあってはならないこと。皆さまの看板でうちの酒を勧めていただいているわけですから、ちゃんとしたものだけを出さなくては、と」

この場合の「ちゃんとした酒」とは、蔵内で変化のリスクを抑えたもの、という意味です。

「ですから火入れの酒は、私が飲んでほしい天美の味です。その飲んでほしいという状態の火入れをプログラム化してくれて、実現してくれた!という人が菊田さんだったんですよ」

二人三脚でたどり着いた、新しい設備の「完成」

菊田さんが“やってくれた”こととは、どんなことだったのでしょうか。半自動瓶燗機「ヒートリード」の特徴は、高精度の温度管理と対流のコントロールによって思い通りの火入れを実現するというもの。曰く「それぞれに味わいが異なる酒に応じた最適な火入れ方法を行うために開発された機械」なのだそうです。

では、その最適化はどのように行なっているのか。「文系でもわかるようなご説明を」とお願いした結果の、菊田さんと藤岡さんの会話内容をご紹介します。

試行錯誤が生んだ「最後の味の決め手」

菊田「この機械には、槽が大きいので30ケースほどのお酒が入るのですが、普通の瓶燗器だと、蒸気の出る真ん中と端とでは全然温度が違います。槽の中で温度のばらつきがあると、瓶の内圧の差が出るので熱くなりすぎて瓶が破裂したり、逆に熱が入らないものが出てきたりするのですが、この機械だとポンプで槽の湯を循環させているので、真ん中でも端でも、ほぼ同じ温度です。

お湯の温度が上がるのが速く、瓶内の上部も温度管理されているので、酒への負担が少ない。さらに設定温度に到達したらシャワーが出て熱を抜くために排熱ファンも廻るので急冷もしやすい。密詮した状態の瓶でもほとんど破裂しないし、香りも逃げないし、ガス入りの商品も出せるんです」

藤岡「4合瓶と1升瓶とを比べた場合、1升瓶のほうが容量が多いので、どうしても同じ温度に到達するのに時間がかかる。瓶燗の熱がかかればかかるほど味は熟すので、そうなると火入れの段階で味わいに差が出てしまいます。

たとえば飲食店さんで天美の1升瓶を飲んで『美味しかった』と思っていただいたあと、酒屋さんで4合瓶を買ったときに『あれ、何か味が違う』という違和感が残る。そういう可能性を少しでもなくせるように、1升瓶も4合瓶も、温度上昇を同じ波型に上げていくようにして、味の差がほとんどないようにしているんです。『1升のほうが熟していて4合がフレッシュ』というような差が出ない形になりましたね」

酒の味を作り上げる要素というと、醸造の過程にばかり目が向きがちですが、最終的には、火入れの方法、設定温度や時間、急冷のタイミングなどで味の調整は大きく異なってくる。そのことを藤岡さんと菊田さんは、さまざまな瓶燗方法のテストを重ね、実感していったそうです。

藤岡「最後の味の決め手は、火入れなんだ、と。ここにまたひとつ、酒造りのすごく大事な技術があるということを菊田さんとこの機械に教えてもらったんです。本当にこの瓶燗の段階で全然違う酒に仕上げることができるんですよ。キクさん、天才や」

菊田「藤岡さんが最終的に選んだ設定は、商品化した時に味のピークとなるものではなくて、開栓してからピークが出るように、少しフレッシュにしたものでしたね」

藤岡「そうですね。今飲んでもきれいだけど、もっと開いていくよ、という状態で止めたいと思いました。フレッシュさが好きなお客さまであれば、すぐに飲めばいいし、そうではない場合は、徐々に味が開いていくので、満開の味までを楽しめる。飲食店さんたちもコロナで動けない状態だったので、1カ月経ってもへたらないという状態のほうがいいかなと考えて」

利用者目線で、ヒートリードの「一番いいところ」とは

ところでこの「ヒートリード」、完成はいつだったのでしょうか?

菊田「もともと、瓶燗機の原型となるものは、この7年くらいをかけて造ってきてはいたんです。それを藤岡さんの要望も取り入れながらブラッシュアップして、今の形になったのは、今年です」

このとき藤岡さんが出した要望のひとつは、お酒が入ったケースを詰める槽の構造改革。改革以前の槽では、重いケースを高く持ち上げて入れなければなりませんでしたが、改革後は槽の正面が開くハッチ構造に。そうしたことで、酒ケースを出し入れする作業がぐっと楽になり、作業をする人たちの腰への負担も軽減することになったそうです。

菊田「技術者としては少し悔しいんですけど、使っている方たちにこの機械の良いところを聞くと、皆さん、このハッチ構造って言うんですよね(笑)」

新しい酒蔵と、新しい醸造機器メーカーのパートナー関係

藤岡「菊田さんの良いところは、痒いところに手が届く以上に、痒くないところまで掻いてくれるようなところ。蔵としては、そう簡単に機械を買い替えることはできない。けれども、ここを少し変えてくれれば、お酒の品質が良くなるのにとか、今、このことに困っている、というようなことを、密かに変えてくれたり、生み出してくれたりするんですよね。

酒蔵の私たちが気づく前に菊田さんが気づいてくれて衛生的な環境に変えるポンプを考えてくれたりして。こういう人、いないですよ、自分で作れて、蔵の人間とも一緒に作ってくれて、試験もしてくれる設備屋さん。何かあったら、すぐに対応してくれて」

菊田「藤岡さんがすごいな、と思うのは、『いつもと違う! ぴゅーぴゅーって音がする!』とか普段と違うということにすぐ気付くんですよ。いつものことを普通のことと思わず、常にきちんと見ている。聴力も嗅覚もすごい」

藤岡「私、心配性じゃないとお酒造りってできないのではと思うんです。お酒造りの最中は、常に全身センサーで、音が違うとか、匂いが違うとか、機械がおかしくなるんじゃないかとか、心配で常に疑っていますね。機械はまともに動いているはず、とか、プラス思考のほうが人生は幸せだと思うんですけど、それでは多分、何も異変を見つけられない」 

菊田「電話がかかってきた段階で、『ああ、もうそれ答えを見つけてますよ、藤岡さん』っていうことも多いですね(笑)。

この機械にしても、今までは、火入れというのは殺菌のためだけのものでした。でも、藤岡さんが味わいのコントロールというところまで機械を持って行って下さったんですよね。藤岡さんの目指すところは『初めて日本酒を飲む人にも、美味しいと思って貰える酒を』ということでしたから、この機械では毎回出品酒を瓶燗するような動作設定にして、フレッシュな味わいを守りました。

でも、これだけが正解、ということではなくて、たとえば低温のお湯で何十分もかけて瓶燗したほうが味が出てくる場合もあるので、そういう味が欲しいと考える酒蔵さんであれば、そういう設定に。それぞれの蔵の酒質に合わせられる方法がこれなんです」

藤岡「私は醸造的に酒のことを。菊田さんは、設備的に酒のことを。結局はお客さんが喜んでくれる美味しいお酒ができたらいいよねえ、という同じ気持ちを持っているパートナーなので。そこがありがたいですね」

2016年から醸造機器の自社開発に取り組みはじめたキクプランドゥーの菊田社長と、2020年から酒造りをはじめた長州酒造の藤岡杜氏。二人が出会ったことの恩恵は、お酒を楽しむ私たちも十分に受け取っているのですね。

※「天美」長州酒造に関する記事はこちら
地酒の新星「天美」、女性杜氏が挑む蔵づくりと酒づくり - 山口県・長州酒造

※キクプランドゥーに関する記事はこちら
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